かつて私が受験生だったとき、大学受験ラジオ講座という媒体がありました。

 1時間のラジオ番組で、出演講師が予備校のような大学受験向けの授業を展開し、聴取者は、旺文社が毎月発行していた『大学受験講座ラジオテキスト』という雑誌を入手してから(この雑誌がないと実質的に何をやっているのかわからない)この授業をラジオで聴くというものです。今でもYouTubeなどに似たような講座がありますが、その前身と考えてもらって良いでしょう。

 私も、この大学受験ラジオ講座を聴いて勉強したクチですが、1年分の定期購読を申し込むと、旺文社から「勉強十戒」というものが書かれた印刷物をもらえました。何でも、旺文社の創業者、赤尾好夫が受験生に向けて書いたもので、私などは、これを部屋の壁に貼って励みにしていたものですが、あれから30年以上経った今では、その内容をほとんど忘れていました。

 ところが先日、私が昔持っていた『大学受験講座ラジオテキスト』の雑誌がネットオークションに出されていたために、喜び勇んで入手したところ、この勉強十戒の印刷版(私が持っていたもの)がそこで紹介されており、あらためて私の目に触れることになりました。内容は、こういうようなものです。

勉強十戒

一、学習の計画を立てよう 計画のないところに成功はない
二、精神を集中しよう 集中の度合が理解の度合である
三、ムダをはぶこう 戦略の第一は時間の配分にある
四、勉強法を工夫しよう 工夫なき勉強に能率の向上はない
五、自己のペースを守ろう 他を見ればスピードはおちる
六、断じて中途でやめるな 中断はゼロである
七、成功者の言に耳をかたむけよう 闇夜を照らす灯だ
八、現状に対し臆病になるな 逃避は敗北である
九、失敗を謙虚に反省しよう 向上へのクッションがそこにある
十、大胆にして細心であれ 小心と粗放に勝利はない
赤尾好夫作

勉強十戒イメージ(再現してみました)

 今読むと、どうにも勝利至上主義・成功至上主義が前面に出ていて少しばかり辟易しますが、「受験戦争」たけなわの1980年代の世相をよく反映しているとも言うことができます。

 内容については、先ほども言ったように私自身ほとんど忘れていましたが、十の「大胆にして細心であれ」は唯一記憶に残っており、これまでもときどき頭の中に蘇る文言でした。一見矛盾する二つの言葉(「大胆」と「最新」)を並べて一つの格言めいたものを作っているわけで、よくできたフレーズと言って良いでしょう。やはりこれが「勉強十戒」の中でもっとも光る文章で、私自身も当時から、なかなかうまいことを言うもんだと感じていました。

 ただ内容については、先ほども言ったように、「我慢して頑張れば成し遂げられる」というような根性主義が窺われて、今の私の感覚から見ると「古い!」と言わざるを得ません。何でも無理して頑張ってぶつかり続ければ扉が開かれるという考え方は、「突貫方式」と言い換えることもできますが、実際にはなかなかそう簡単に行かないもので、本当に目標を達成しようと思うのであれば、こういった突貫方式ではなく、もう少し合理的な思考をした方が良い結果が出ると思われます。

 私もこれまで中学生や高校生にいろいろと教える機会がありましたが、突貫方式の限界については確信に近いものがあります。世の中の多くの人の場合は、突貫方式ではあまり良い結果が出ません。ただし我慢強く根性があり競争が大好きで、しかも物事を深く考えないような人々にとっては、突貫方式がうまく行くため、結局、エリートと言われる人々はこういう人間ばかりになってしまっています。そういう人は突貫方式で勉強すれば良いのです。ですが、そうでない多くの人々は、ものごとをよく考え、何が最善策か見極めた上で、新しい方法を模索しなければなりません。

 閑話休題。前振りが長くなりましたが、受験生を励ますという意図で、私も「勉強十戒」のようなものを考えてみました。ただ「十戒」という言葉は、旧約聖書を彷彿させあまりに重々しいため(「十戒」というのはそもそも契約ですしね)、「勉強八策」というタイトルにしました。内容については数年前から暖めていたもので、実際に生徒に教える際に実感したものばかりです。同時に、この考え方は、当塾の方針でもあります。そのため、施政方針的な意図で、ここに示しておこうと思います。それぞれの事項については、また、折に触れて解説を加えて行きたいと考えています。

逍遊版・勉強八策
勉強八策
  • 自分が今から何をすべきか、まずその全体像を把握しよう。地図のない冒険ほど危ないものはない。
  • 何のためにそれをするのか、常に問いかけよう。真の意味を探ることこそ学びの第一歩だ。
  • 楽しんで取り組めるようにするために最善を尽くそう。楽しんでやれないことに向上は望めない。
  • 常に最善手について検討しよう。反省のないところに向上はない。
  • 失敗を恐れてはいけない。失敗で失うものより得るものの方がはるかに多い。
  • 人はそれぞれ違うということを前提にしよう。成果を測るときは、過去の自分と比較すべし。
  • ひたすら我慢して頑張ることは避けよう。勉強は修行ではない。
  • 疑問が湧いたらそれを大切にしよう。真の学びは疑問から始まる。

逍遊ゼミナール