ひねもすのたり日記 (1)〜(3)
ちばてつや著
小学館
作者が描きたいことを描くことの価値
2016年から『ビッグコミック』に連載されている、ちばてつやのエッセイ・マンガ。
ちばてつや自身はすでにプロダクションも解散しており、しばらくマンガも描いていなかったが、『ビッグコミック』から新作執筆の依頼があったことで、この連載を始めたらしい。このあたりのいきさつは、本作の第1回と第2回で描かれている。1話あたり4ページだがオールカラーで、なかなかの力作と言える。
エッセイ・マンガであるため、日常雑記みたいなものもあるが、子ども時代から若い頃までの回顧談が大半を占めており、これが非常に読み応えがある。子ども時代の話は敗戦後の満州からの引揚げのときの壮絶な経験で、こういった特異な戦争体験を後の世代に伝えるという意味でも、非常に有意義な作品になっている。
第1集では、満州から1年かけてなんとか帰国し父の生家に戻るまでが描かれている。『ひねもすのたり日記』のハイライトの部分と言っても良いかも知れない。次の第2集で少年時代、第3集でマンガ家デビュー後が描かれており(『あしあと』の「赤い虫」の話も詳細に描かれている)、日本のマンガ創生期を生きた一人の作家の自伝的作品としても大いに価値があると言える。
若い頃は、どんな勤め先でもうまくいかず、何をやってもだめな人間だった(本人談)というのも面白い話である。このあたり、水木しげるの若い頃と共通である。
絵は多少殴り書き風で、全盛期の美しさはないが、コマ割りや話の動かし方が非常にうまいのは、さすがベテランである。現在、第4集まで出ているらしく、今も連載は進行中のようである。今後も楽しみ。
本の紹介『あしあと ちばてつや追想短編集』
2023年1月10日