あしあと ちばてつや追想短編集

ちばてつや著
小学館

完成度が高い自伝マンガ

 マンガ家、ちばてつやの珍しい短編集。「家路1945-2003」、「赤い虫」、「トモガキ(前編)」、「トモガキ(後編)」、「グレてつ」の5本で、すべて自伝的な作品である。

 「家路1945-2003」は、敗戦直後の満州からの引揚げの体験を綴ったもの、「赤い虫」は、作者がマンガ家として売れ始めていた頃の神経症の話、「トモガキ」も新進マンガ家の頃の話で、作者が大けがをし連載を落としそうになったときにトキワ荘の作家、石森章太郎と赤塚不二夫が代わりに作品を仕上げてくれたエピソードを紹介するもの。最後の「グレてつ」は『のたり松太郎』を描き始めたときのエピソードである。

 マンガ家の自伝的作品は、総じて秀逸で、しかもこの時代の作家たちは皆恐ろしくうまいと来ている。ちばてつやの場合も同様で、どれも快作である。ここに描かれているエピソードは、おそらく現在進行中のエッセイ・マンガ、『ひねもすのたり日記』でも描かれているのではないかと思う。満州からの引揚げの話については、『ひねもすのたり日記』の方が詳しいため、「家路1945-2003」には多少物足りなさも感じるが、完成度はこちらの方が高い。また、「トモガキ」で描かれているトキワ荘の作家との交流も大変感動的であった(ちばてつやとトキワ荘グループの間で交流があったこともまったく知らない事実だった)。この作もやはり完成度が高い。

 先ほども書いたように、おそらくここで紹介されているエピソードはどれも『ひねもすのたり日記』で紹介されている(またはこれから紹介される)と思うが、あちらは日記的作品、こちらは私小説的作品で、どちらの作にもそれぞれ大きな価値がある。願わくば、あちらで、今までの経験、あわせて日本のマンガ史について詳細に語ってほしいものである。こういった作品群は、資料的な価値も高いと言える。

-マンガ-
本の紹介『ひねもすのたり日記』