ニーベルングの指環 (1) ラインの黄金

松本零士著
小学館クリエイティブ

絵に動きがない上、話自体が単純

 松本零士が、ワグナーの楽劇『ニーベルングの指環』をマンガ化していたという話を最近知って、その第1作を読んでみた。それがこの『ラインの黄金』。

 松本零士と言えば、『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』などが有名で、一世を風靡したマンガ家と言っても過言ではない。僕自身は『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』は原作を読んでいたが、アニメについてはあまり見ていない。熱狂的な『ヤマト』ブームに少々辟易していたせいで、その後の『キャプテンハーロック』なども原作マンガを少し読んだが、アニメや映画についてはほとんど見ていない。松本作品の中で僕の一番のお気に入りは『ワダチ』で、『男おいどん』も非常に好きだった(全巻持っていた)。また小中学生のときは、『少年サンデー』に連載されていた戦争ものの松本作品もよく読んでおり少なからず影響を受けたが、作品の多くは戦争での勇気や男らしさを強調するもので、決して良い影響ではなかったと今となっては感じる。太平洋戦争で使用される予定だった「桜花」などの人間魚雷も松本作品を通じて知っていたわけだが、あれも乗員のロマンとして描かれており、今振り返ると決して手放しで称賛できるものではない。そういう過去があるため、松本零士については、良い影響も悪い影響も強く受けており、思い入れはそれなりにある方だと思う。

 一方、ワグナーについては、僕にとってかなりハードルが高い世界で、クラシック音楽はよく聴くしオペラだって見たりするが、ワグナーの音楽は、くどくしつこい感じがしてあまり好きになれない。かつてテレビで楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を見たことがあるが、やはりくどくて途中から見続けるのに苦痛を感じていた。ワグナー好きの人々からワグナーの魅力が語られるのを聴いたりすると、僕自身もその曲を聴いてみたりするが、いまだにあまり感じるところがないのである。

 一方、松本零士は大のワグナー好きらしく、そこでこの『ニーベルングの指環』のマンガ化を思い立ったそうだが、それならばやはり、僕もこの際それに触れてみなければなるまいということで、今回図書館で借りて読んでみたのだった。長くなったが、いきさつはこういうことである。

 本作は、『ニーベルングの指環』四部作の第1部『ラインの黄金』を、松本零士風にSFとしてマンガ化したもので、内容は完全なスペースオペラである。しかも登場人物は、『ラインの黄金』に出てくるヴォータン、アルベリヒ、ミーメ(女性化されている)の他に、キャプテンハーロック、メーテル(『銀河鉄道999』)、大山トチロー(『おいどん』から派生したキャラらしい)まで出てきて、完全に松本零士の世界になっている。

 実際に本作に触れて感じることは、それぞれのコマは非常に丁寧に描かれているが、絵に動きがない上、ネームが唐突であるため、読み進めるのがかなり苦痛であるということ。一方で話自体は単純で厚みがない。たたずまいが大仰ではあるが中身があまりないと言えば良いのか、正直ほとんど面白みを感じなかった。『ラインの黄金』のストーリーは、かなり改変されてはいるが、調べて大体のところは把握できたのでその点では良しとする。第2巻以降も図書館で借りているため読むつもりだが、『ニーベルングの指環』のお勉強のためという目的になりそうである。