奴隷の哲学者エピクテトス 人生の授業

荻野弘之著、かおり&ゆかりイラスト
ダイヤモンド社

エピクテトスの復権につながる良書

 先日、ローマ皇帝、マルクス・アウレリウスの『自省録』の関連書を本屋で覗いてみたところ、あまりの金言の数々に驚いたのだった。確かにマルクス・アウレリウスは哲人皇帝と呼ばれた人だが、しかしこれだけの思想を展開するのであれば、哲学者としてもっと名前が上がっても良いはずではなどとつらつら考えていたのだが、最近になってその思想的背景となったのが、ストア哲学のエピクテトスであることを知った。

 とは言うものの、エピクテトス自体、僕はそれまでまったく知らずにいたわけで、そもそもストア哲学にもギリシャ哲学にもあまり関心はない。しかしそれでも、エピクテトスの主張する「自分で何ともならないものに思い煩わされないようにすべき」とか、「大切な人が死んだときは神にお返ししたと考えるべき」とかいう言説は非常に魅力的で、単なる逆接的表現と片付けられない魅力がある。おそらくこういう考え方は、悲しみや苦しみに振り回されている多くの人々にとって、生きる上で大きな力になる。今回エピクテトスの入門書として本書に当たったわけだが、要するにマルクス・アウレリウス経由でここまで来たわけである。

 本書は、見開き2ページのマンガに続き、エピクテトスの金言を見開き2ページでまとめたものが来て、その後に2〜4ページの解説が続く。これがひとまとまりとなって項を構成し、この項が全部で27ある。そして、それぞれの項ごとに、エピクテトスの思想が1つずつ紹介されるのである。こういった構成、いかにも、教訓たらたらのビジネス書みたいなたたずまいで、このような体裁自体あまり好きになれないが、エピクテトスの思想については非常によく伝わってくる。

 実際本書を読むに当たって、エピクテトス著の『人生談義』という文庫本(エピクテトスの『語録』、『提案』、『断片』が全訳されているらしい)にも当たってみたが、翻訳が悪いせいか、ほとんど暗号のようで、何を書いているのかさっぱり理解できない。それに比べると、本書で紹介されるエピクテトスの思想は、実にわかりやすい。たとえ体裁がビジネス書みたいでも、読んでわからない本よりははるかに優れていると言える。読んでも意味が伝わってこない本に存在価値はないし、むしろエピクテトスの思想を正しく伝えられないことから誤解を招き、その価値を損なうことにつながるという点で害悪であるとしか言えない。逆にそういう点で、つまりエピクテトスの思想、あるいはストア哲学の復権という意味でも、本書の価値は高いと言える。良書である。

-思想-
本の紹介『純粋理性批判〈1〉』