物語 ウクライナの歴史
ヨ-ロッパ最後の大国

黒川祐次著
中公新書

ウクライナの来し方から敷延して
ウクライナ戦争について考える

 現在ロシアに侵略され抵抗を続けるウクライナの、2002年までの歴史について書かれた本である(2002年に刊行された本であるため)。著者は、元駐ウクライナ大使で、ウクライナの事情について精通しているお方。

 ウクライナの地は、土壌が肥えていたことから農業が盛んであり、しかも東西・南北交易の交差点になっていたことから、経済的にも重要な地であった。かつては、遊牧民のスキタイがこの地を支配し、ペルシャやギリシャともやりとりがあって、大きな文化圏を形成していたが、民族大移動の時代を経て、やがて東ヨーロッパのかなりの領域を支配するキエフ・ルーシ公国が成立する。その後、モンゴル帝国(キプチャク汗国)の支配を経た後、周辺の力を持った国々(ポーランドとリトアニア)によって争奪の対象になる。同地内では、自衛の武力集団、コサックが自立し、やがてコサックがヘトマン国家として自立するが、相変わらず、北方からの圧力に加え、モスクワ大公国とオスマン帝国までがその豊穣の地を狙い侵略を企ててくる。ヘトマン国家はやがて勢力を削がれ、結局周辺国の支配下に置かれることになって、ロシアとポーランドが分割支配することになった。その後はロシアとオーストリアハンガリーの分割支配時代、ソビエト連邦への編入と続き、ウクライナの地に独立国家を樹立することができないまま20世紀末を迎えることになった。その間も独立を企てる政治勢力はたびたび登場するが大国(特にソビエトロシア)の力が凄まじく、同地はソビエトやドイツに蹂躙されるという不幸な歴史を繰り返していた。

 それが大きく変わったのが1990年のソビエト連邦の崩壊で、これを機にウクライナはついに独立を果たす。2002年の時点では、西ヨーロッパなどの周辺諸国との間に良好な外交関係を結ぶことで、健全な国家運営を行っているという状況である。

 本書から窺われるのは、ウクライナはロシアの一部というロシア側の見方(帝国ロシアの時代から続いている見方)と、ロシアと決別して自立すべきとするウクライナ(特に西部・南部)側の見方の齟齬で、今回のウクライナ紛争もその辺にルーツがあることが窺われる。それを考えると、今回の戦争は、結果的に「ウクライナ独立戦争」になるという見方ができる。おそらくウクライナはロシアから実質的完全独立を遂げ、食料輸出国、武器輸出国として東ヨーロッパの大きな勢力になるのではないかと個人的には感じているが、一方で今のままだとロシアの国内が崩壊しかねず、そうするとむしろウクライナがモスクワの地を実質支配するというような事態も考えられなくはない。通史でウクライナの歴史を見てみると、エマニュエル・トッドが『第三次世界大戦はもう始まっている』で書いているウクライナの特徴が非常に一面的であることがわかる。聞き書きでなく、やはり自分自身の手で直接調べて確認しなければ本質的なところは見えてこないとあらためて感じた。

-政治-
本の紹介『第三次世界大戦はもう始まっている』
-政治-
本の紹介『西洋の敗北』