ニワトリと卵と、息子の思春期

繁延あづさ著
婦人之友社

読後感は爽やかでなかった

 『山と獣と肉と皮』の繁延あづさの著書で、オリジナルは雑誌『婦人之友』の連載である。

 長崎の高台に住んでいる著者一家だが、小学校高学年の長男がニワトリを飼いたいと言い出し、計画書まで作成して周囲を説得し、実際に養鶏を始める、さらには卵の販売まで行うようになるという、その過程を描く。

 養鶏レポートであると同時に、長男が自己を主張し、親とぶつかり合う過程も描かれる。長男が積極的に養鶏をどんどん進めていくあたりはなかなか痛快だが、時折出てくる長男の自己主張がかなりのわがままに映り、少し不快さを感じる。もちろん「もっとも」と思わせるものもあるが、親を困らせるために家出を繰り返したりするのはやや幼児的で、仕事を辞めた父親に対して「稼ぐのが親の義務だ」などと主張するのも自己中心的に映る(著者はこれを、ユングのいわゆる「父親殺し」、「母親殺し」であると肯定的に捉えているようだが)。著者自身もそのあたりに戸惑いを感じているから、そこを強調しているんだろうが、あまりに自己中心的な人間になってしまわないか気がかりになる。

 そういう意味で、読後感はあまり爽やかなものではない。親子関係の問題が不快な澱を残しており、それが養鶏の過程のエキサイティングさを帳消しにしている。もちろん、テーマの中心は親子関係なんだろうが、何とも言えない不快感が最後に残ったのも事実である。

-社会-
本の紹介『山と獣と肉と皮』
-随筆-
本の紹介『その農地、私が買います』