山と獣と肉と皮

繁延あづさ著
亜紀書房

生死を目の当たりにした人間の
生命に対する感覚・思索の履歴

 出産撮影をライフワークとしていた写真家の著者は、猟に関心を持つようになり、知り合いの罠猟を営む猟師に同行して山に入るようになる。野生動物と間近に接することで、動物と(食料としての)肉との関係を実感した著者は、鉄砲を使った他の猟師や、獣の皮を使って革製品を作る職人などにも興味を抱き、彼らのところに赴いて、そのときに五感で感じたことを書き残したというのがこの本である。『山と獣と肉と皮』というタイトルは、まさにそのものズバリで、「山と獣と肉と皮」を前にして著者が感じ考えたことが本書のテーマということになる。

 著者は、当初、「おじさん」(地元の猟師)からときどき猪肉をおすそ分けしてもらっていたが、生肉を調理する過程で、肉になった獣の命、ひいては自らの命を意識するようになり、やがて猟に同行するようになる。罠で捕らえられた状態の生きている獣を目にすると、食べる肉との繋がりが意識され、食べられる獣の生命にも意識を馳せるようになる。そういうことについて書かれたのが前半部である。このあたりの描写はきわめてユニークで、特に現場に立ち会ったときの緊迫感など、それが直に伝わってきて、見事である。

 後半は、鉄砲猟師と皮に話が移っていくが、インパクトは少しずつ減っていき、皮革の叙述については正直退屈さを感じた。しかし著者の生命についての思索は最後まで一貫して続けられ、生死を目の当たりにした人間の、生命に対する感覚・思索の履歴として大きな価値を持つという点では変わらない。

 元々は亜紀書房のウェブマガジンに連載されたものらしく、そのせいもあるのか記述は非常に読みやすい。ところどころ誤植がある他、本文に使われている軽めの書体や大げさ過ぎる帯など、気にくわない部分もままあるが、記述内容(特に前半)については申し分ない。

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