その農地、私が買います 高橋さん家の次女の乱
高橋久美子著
ミシマ社
コミュニティの保守性が
自身の首を絞める状況があぶり出される
著者は、愛媛県東部の農村出身で、現在は東京在住でライターをしている人らしい。食や農についての活動もしているようである。
著者によると、近年、地方の田畑が潰されソーラーパネルが次々に建てられているらしい。そしてその流れがいよいよ故郷の田畑にまで及んできて、故郷の近隣の農家がその田畑を電力事業者(ソーラーパネルを設置しようとする業者)に売却しようという動きが出てきた。実際のところはかなり話が進んでいる状況だったが、故郷の田園風景にも農業自体にも思い入れがある著者にとって、田畑がソーラーパネルで埋め尽くされるというのは耐えられないことで、何よりソーラーパネル自体が環境破壊に繋がるのではないかと考える。
そこで、自ら動き出し、ソーラーパネル用に売り出されることになっていた農地を自ら買い集めることにして、そのために奔走し、そのいきさつを綴ったのが本書である。といっても、そのいきさつが書かれているのは第1章「久美子の乱 第1ラウンド」と第2章「久美子の乱 第2ラウンド」だけで、第3章と第4章が、そこで農業を始めたときのいきさつ(サトウキビを植えたりする)になる。さらにその後の第5章から第7章は、農業や狩猟の話ではあるが、農地買い集めには直接関係ない話になる。ネタが足りなかったために水増ししたのかという疑いも出てくる。土地の購入時にかなり揉めていたため、購入した農地がその後どうなったのか知りたかったのであるが、5章以降で急に北海道の話や東京の話になったために、途端に興味が減退した。
ただ最後の「長い追伸 そこで暮らすということ」で、土地購入手続き後の地元の様子が出てきて、ほとんど村八分みたいな状態になった状況が紹介されていて、にわかに本としての活気を増す。早い話が、農地の購入は簡単には行かないし、(たとえ正論であっても)地域の結束を乱すようなことをすれば、途端に排除されてしまうということらしいのである。多くの若者はそういう息苦しさが嫌で故郷を捨てるわけだが、結果的に跡を継ぐ者がいなくなり、集落自体が消滅してしまうことになる。挙げ句に、今回のように農業と関係ない外部の業者に売り払い、コミュニティ自体が崩壊するという結末になる。そうなる理由についても本書で考察されていて非常に説得力があるが、いずれにしても日本の農業を取り巻く社会の保守性が自らの首を絞めていることは明らかで、本書ではそういうことがミクロ的な視点で明らかにされている。そういう点でもなかなか面白い本であったと言える。
ただしやはり途中の「水増し」のような箇所は不要であると思う。「長い追伸」で紹介されていた地域のトラブルを書くことに抵抗があったため、それについて書くことをためらい、こういう空気の抜けたような章になったんだろうが、結果的に本としての価値を損なうことになった。1章から4章までをそのままにして、5章に「長い追伸」のいきさつを詳細に書いて一冊にするのが望ましかったと思う。もっともそんなことをしたら、愛媛の高橋家が本当に村八分になってしまった可能性も大いにあるが。