アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

ジェームズ・ブラッドワース著、濱野大道訳
光文社

現代版『どん底の人びと』

 ジャック・ロンドンの『どん底の人びと』やジョージ・オーウェルの『パリ・ロンドン放浪記』を髣髴させる体験的潜入ルポ。現代の底辺労働の現場で実際に働き、その問題性をあぶり出すという主旨の本。

 著者が「潜入」するのは、アマゾン、ケアウォッチUK(訪問介護事業者)、アドミラル(コールセンター。保険をやめようとする人々を引き留めるのが仕事)、ウーバー(タクシーの個別配車事業)の現場で、どの仕事も(生活を持続できないほどの)きわめて安い報酬(中には未払いのものもある)、ゼロ時間雇用契約(雇用側の必要なときにしか仕事が割り当てられない)、上司あるいは管理担当によるハラスメントなどが共通項として存在する。日本の派遣労働と共通する収奪型労働システムである。

 アマゾンについては、他の本でも日本の事情が告発されているが、英国の状況は、出稼ぎ外国人(ルーマニア人など)が多く、管理担当者が下の者に対して差別的な扱いを平然とする点が日本の事情と異なる。企業の都合にあわせて働かされ、企業側の要求を受け入れなければいつでも馘首に遭うという点が共通項であり、非人間的な扱いを受けるという点も同じである。訪問介護のケアウォッチについては、利用者(つまり障害を持つ人々)を軽視したサービス実態が明らかにされる。各利用者の家を訪れ20分だけ介護を行い、次に他の利用者のところに移動するという多忙なスケジュールが組まれ、しかも渋滞が発生したりある家で時間を取られたりする(介護の現場では往々にして起こるが)とその後の利用者の滞在時間がさらに短縮されるという驚愕の実態が明らかにされる。英国で介護を受ける立場になりたくないと感じる。アドミラルやウーバーも問題は似たような点にあり、とにかく労働者が人として扱われておらず、収奪の対象になっているというあたりが共通項である。

 こういった現代労働の問題性は、本書を読んでいるとよく伝わってくるが、途中たびたび出てくる英国の炭鉱労働者の話が長ったらしくくどい点が難である。かつて下層労働者が従事していた炭鉱労働がこういった現代の収奪労働の比較対象として論じられ、炭鉱労働の美点(労働者同士の結束があった点)がノスタルジックに語られるが、日本に住む我々からすると、こういう記述にあまり必然性を感じない。純粋に現代の収奪型労働環境だけを訴えてほしかったと感じた。

 一方で、こうした疎外型労働ばかりがはびこり、しかもそれがあまり問題視されていない現代社会は、100年前の労働環境よりひどくなっているのではないかとも感じる。かつては、このように人を人として扱わない労働環境が告発され、組合活動などを通じて改善が促されてきたが、現代の労働環境では、労働者の繋がりを分離した個別化が進んだこともあって、なかなか光が見えてこず、企業側が好き勝手に振る舞っているように映る。こういうルポルタージュが突破口になってくれれば良いとは思うが、それ以前に消費者側がこのような悪徳企業に対してノーを突きつけることが第一ではないかとも感じる。本書は、そういうことを考えるきっかけになったわけで、内容には多少の不満があるが、まずまずの読書体験だったのではないかと思う。

 なお原題は『Hired(雇われる)』であり、本書の長いタイトルは日本版ならではである。内容をある程度反映しているが、多少疑問を感じるタイトルではある(炭鉱などの過去の労働形態がこのタイトルにニュアンスとして含まれていないため、先ほど書いたように、読んでいるときにそういった記述を不要に感じたわけである)。

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