クルマを捨てて歩く!
杉田聡著
講談社+α文庫
車を捨てよ! 街に出よう

車は基本的に嫌いである。
だから長年免許も持っていなかった(やむにやまれぬ理由で数年前にとったが)し、移動する場合は、徒歩か自転車、または交通機関を利用する。
第一、車にはデリカシーがない。鈍感だ。横断歩道を歩いていても平気でつっこんできたり(僕は追突されたこともある)、雨の日に水をとばして通り過ぎたり(水をとばされるのはたびたびだ)。普通の人間の感性では理解できないよ。街を歩いているときに(車ではなく)そんな人間(しかも巨体の)に出くわしたらどう思いますか、皆さん(ちなみに僕はそんな人間に出くわしたことがある)。
そもそも人間は、自動車の速度で走ってはいけないのだ。蠅には蠅の速度がある。象には象の速度がある。人間には人間の速度がある。あの巨体で傍らをすり抜けられるだけでも恐怖を覚える。だが、そんなこと、車に乗っている者には気がつかないだろう。だから鈍感だっちゅうの。
そういうことを常日頃考えている自分にとっては、この本の主張はさして目新しくない。車に依存する生活をやめて歩く生活を送れ、というのがテーマだ。車を捨てると、お金が増え、体力がつき、環境が良くなると言うのだ(「車を捨てると時間が増える」とも言っているが、これについてはあまり賛同できない)。こんなことは、自分だっていつも考えている。とは言うものの、こういうことを声高に(本という形で)述べること自体が、非常に有意義なのだとも思う。拍手パチパチものだ。
子供にとって車がどれほど危険なものかを子供の立場になって書いているところもすばらしい。
親は子供に対して「車に気をつけなさい」という。しかし、子供は本来、動きも遅く視野も狭いものなのだから、気をつけるべきは、凶器である車の側だと主張する。ごもっとも。
この著者のエライところは、実際に近所の道路(子供がよく通行し遊び場にしている)を車から解放する運動をやって、成功したことだ。理論家であると同時に実践家でもあるため、きわめて説得力がある。最後に「クルマを捨てる決心の固め方」という章がある。ある意味、ハウツー本なのだ。
何も考えずに車を乗り回している人に是非読んでもらいたい本だ。そして願わくば、車を捨ててもらいたい。あなたの体のためにもネ。

