ぼく 闇は光の母3

谷川俊太郎作、合田里美絵
岩波書店

良い本だと思うが
子ども向けになっているのだろうか

 ETV特集の『谷川俊太郎と死の絵本』で取り上げられていた『ぼく』を読むことができた。図書館に入るのを待っていたのだが、なかなか入らず、ずっと待っていた。ぼくは待った。じぶんで待った。

 さてこの本だが、子どもの自死を扱った内容で、「ぼくはしんだ じぶんでしんだ ひとりでしんだ」と一人称で語られる谷川俊太郎作の詩に、合田里美が絵をつけたものである。あのドキュメンタリーでは、谷川俊太郎が絵についてしきりに要望を出し、合田が何度も描き直しをするというプロセスが描かれていた。要は、当初合田の絵が詩の内容に沿った具体性を帯びたものだったのが、谷川の要望で、内容から少し離れた日常生活が描かれるように変えられていったのだった。

 僕自身は、この変更についてはドキュメンタリーを見た時点では少し懐疑的だったが、この絵本を実際に目にすると、その変更によって生まれた効果が認識できる。「一人の人間が何気なく過ごしていた日常から突然いなくなる」ことの無情さや悲しみが、結果的にうまく表現される結果になっていて、途中涙が出そうになったほどである。結果的にすばらしい効果が生まれており、さすが谷川俊太郎と思わせるものがある。

 ただ、この本はどういう状況で読まれるのだろうかという一片の疑問は残る。子どもに伝えたいメッセージではあるが、子どもたちはこれを読んで感じることがあるのだろうかと思う。身内がいなくなることの悲しみは、そういった経験のない普通の子どもにはなかなかわからないものである。むしろこれは(そういう経験を持つ)大人の方に読んで感じるところがある絵本で、大人向けの絵本ということになれば(絵本に対する敷居が低い)一部のマニア向けということになるんじゃないだろうか。最後の「編集部より」というページに(おそらく子どもに向けた)「死なないでください」というメッセージが書かれているが、こうなるとこの本が初期の意図からは少しずれているような気もする。子どもたちがこの本を読んだときにどう反応するか、どう考えるのかが気になるところである。