すべての外国語に共通することですが、初めて外国語を勉強するとなると、いろいろと戸惑うことが多いものです。

 英語の勉強は中学入学から本格的に始まるわけですが、その「入り方」が悪いことから英語がわからず苦手……という生徒が時折見られます。一つには英語学習の方法をしっかり把握していない(教えてもらえていない)ことが原因で、そういう生徒には少し手ほどきするだけで英語の理解が大幅に進むということがよくあります。

 そこで、英語学習のためのヒントを、どのあたりを目標にしたらよいかという視点で少しお話ししてみようかと思います。

 簡単に言えば、ごく最初の段階では、母語と異なる言語体系に慣れるところから始めなければなりません。英語で言えば、文章が「誰が+どうする+何を」という並びになり、それだけで日本語とは異なる上、使う文字も表音文字のアルファベットばかりになってしまうわけで、そのあたりから意識しておく必要があります。

 そこで最初に目指すべきは、ある単語を見たときにその読み方と日本語の意味がすぐにわかるようにすることで、さらにはそういう単語を増やしていくことが当面の目標になります。英単語を見たときに読み方と意味がすぐに連想されるようになればとりあえずの第一段階はクリアです。もちろん書けるようになることも疎かにはできません。このあたりは今では小学校からやっているようですが、目標を明確にしておく必要はあります。

 次に、ごく単純な文章でよいので、文章単位で内容を把握できるようになることを目指します。そのための手段としては、簡単な文章を何度も音読し、繰り返し書いてみるというのが最良の方法です。こうやって自分の頭の中に刷り込みしていくわけです。これは単純かつ地道な作業で飽きやすいので、なるべくバリエーションのある文章に当たってみるなど、多少の工夫が必要になります。忍耐力もほんの少しだけ必要になるかも知れません(本当に少しだけですけど)。こういう少しの努力を重ねていき、知っている単語で構成された文章を見たときに、その意味がほぼ瞬時に把握できること、これが第二段階の目標です。単語と同じように読み方と意味がすぐに連想されるようになることが目標です。

 自分の母語とまったく異なる言語は、発想法から何からまったく違うわけで、勉強を進めていくと、それについての疑問がどんどん湧いてくるはずです。疑問が湧いても「そんなものだ」と割り切れる人は一般的に勉強ができる優等生に多いものですが、私はむしろ疑問を見つけ、それにこだわるだけの知性を持ち続けてほしいと考えています。そのような疑問について答えを用意ししっかり整理して伝えるのが、教える側の役割です。ただ現実には、疑問を先生に投げかけても「そんな質問をするな!」などと逆ギレされたりすることもあるので(私もかつて言われた経験がありますが)難しいところですが、そういう場合は、そんな物言いをする指導者の方が問題なのだと自らに言い聞かせてください。疑問は知性の賜物であり、疑問から学術が生まれているわけです。答えられない質問をされたからといって怒るなど論外です。答えられなければ「わからない」とか「答えられない」とか言えば良いのです(実際、答えが出ていない難問はどのような学問分野にもいくらでもあります)。何でも質問に答えられなければならないと思っている先生がいれば、それはとんだ誤解だとここで指摘しておきます。

 また指導者によっては、初学者に対して「なんでそんなことがわからないのか」などと言う人もいますが、これもよくよく考えたら少しおかしな話です。私たちが日常的に人と話をしていて、相手に話が伝わらず、相手が「話の内容がよくわからない」と言ったとき、その人に対して「なんでそんなことがわからないのか」などとは言わないのが普通です。普通は相手がわかるように言い換えるなり、具体例を出すなりするでしょう。私が何かを教わる立場で「なんでそんなことがわからないのか」などと言われたら「なんでそれがわからないことがあなたにはわからないのか」と言ってやりたくなるくらいです。生徒に英語を教えていて「なぜわからないのだろう」と思うことはあるものですが、そういうときはわかるようにかみ砕いて伝えるくらいの努力は、教える側はしなければなりません。当たり前のことです。

 ただそうは言っても、外国語学習では、わからない人にしかわからないようなわかりにくいことはあるものです。一方で教える側はその内容がわかっているために、わからない人の気持ちがわからないということになります(このあたりややこしいですが)。そこで私は、初学者に外国語を教える立場にある人はすべからく、未知の外国語を勉強することが必要なのではないかと考えています。未知の外国語を勉強していると、今までの概念からはよく理解できないことがいろいろと出てきます。初学者が苦労するのはそういうところだということが実感できるものです。

 いずれにしても、学ぶ側も教える側も「初めて外国語を勉強することはそもそも難しいことでありそう簡単には行かないものだ」と認識した上で地道に学習に取り組めば、自ずと道は開けてくるのではないでしょうか。