日本の川を旅する
野田知佑著
新潮文庫
名著再読
1982年に発表された、カヌーイスト、野田知佑の出世作。40年ぶりにもう一度読んでみた。
日本の14本の川(釧路川、尻別川、北上川、雄物川、多摩川、信濃川、長良川、熊野川、江の川、吉井川、四万十川、筑後川、菊池川、川内川)をカヌー(カヤック)で下っていき、そのときの様子を記録した紀行文である。同時に、日本の河川が公共事業によって破壊され、河川で生活してきた人々の生活をも破壊している状況が静かに告発されており、読む側に強烈なインパクトを残す。
この本、あるいは著者によって影響を受けた人はかなりおり、日本でカヌー人口が増えたのもひとえに野田氏のせいである。それくらい、野田氏の著書は魅力的で、そこに描かれる日本の(一部の)川も魅力的に映る。これまでも他のところで本書についていろいろ言及しているためここであらためて書くのもナンであるが、それでもあらためて書いておこうと思い、今回、再読してみたのである。かつてNHK-FMで放送されたラジオドラマ『日本の川を旅する カヌー野郎のロンリーツアー』がYouTubeで公開されており、それを聴いたのもきっかけである。
著者の姿勢は全編を通して一貫しており、面白いから川旅をするというもので、川辺で適当にキャンプし、魚を捕ったり酒を飲んだり本を読んだりしてのんびり過ごすというもの。土地の人々とも自然に触れあい、場合によっては土地の人をカヌーに乗せてやったりもする。決して冒険だとか、環境問題の告発だとかいったものではない。だが、実際には場合によっては冒険的な要素も出てくるし、公共工事でズタズタに破壊された河川を目にすると、それに対して怒りも感じる。汚水が流され汚れた川には落胆し、心ない言葉を浴びせる多摩川の釣り人には幻滅を感じる。そういった一連の行動が、きわめて自然に描かれるため、読者の側も気持ちを自然に著者にシンクロさせる。そのため読者も疑似的に日本の川を旅していることになる。まさに紀行文の鑑と言える。
現在では、当時の川の状況から状況は一層悪くなっているようだが、本書で描かれる川の中では、長良川と四万十川が圧倒的に魅力的に映る。一方、多摩川はやはり最悪の部類で、読んでいるだけで気分が悪くなる。
陸上で生活している一般人は川の状況に気付くことはあまりないわけで、そういう我々に川からの視線をもたらしてくれるという点でも斬新である。自然に対する本来の対峙の仕方を伝えてくれるという点でも、非常に優れた著書ということができる。今となってはやけに「男」を強調する記述が鼻に付くが、当時はそれが社会のスタンダードだったので致し方ない。後世に残して起きたい著書である(実際、ネイチュアエンタープライズという出版社から復刻版の文庫本が出されており、今ではそちらを入手できる。僕が持っているのは新潮文庫版で、椎名誠が解説を書いている)。
日本ノンフィクション賞新人賞受賞