ダムはいらない!
新・日本の川を旅する

野田知佑著
小学館

日本の川は死に向かっている

 『日本の川を旅する』の野田知佑が、30年ぶりに『日本の川を旅する』の川をカヌーで下った。その旅日記が本書で、いわば『日本の川を旅する』の続編である。

 『日本の川を旅する』は、日本版の『森の生活』(ソロー)であり、『沈黙の春』(カーソン)でもあった。日本の川をカヌーでくだり、その自然と風土を称えながら、それが行政によって破壊されつくしているありさまを告発している。同時に、そこに住む人々や生活とのふれあいを淡々と記述し、カヌーでの旅という、(特に当時)一般的に馴染みのない行為を追体験させてくれるという奇跡的な紀行本であった。告発はするが、いたずらに騒ぎ立てるのではなく、静かだが心の奥に届くような痛烈な響きがあった。結果的にこの本は日本ノンフィクション賞(新人賞)を受賞し、そこそこヒットしたようである。そのせいもあり、その後カヌーや川遊びが流行した。かく言う僕もチャンスがあればカヌーをと思っていたのだが、そのまま時間ばかりが過ぎていった。ただ今まで僕のまわりに、野田知佑の影響でカヌーを始めた(始めようとしている)という人間が2人いたので、やはりその影響力は計り知れない。本書で再び訪れている釧路川では、カヌー・ブームのせいでカヌー人口が異様に増えたと(淡々と)述べているが、それはすべてご本人のせいである。

 本書でも、前著と同じく、語り口は無骨であるが優しく、そしてその内容も前著と同様で、行政の愚行に対する嘆き節が随所に見られる。環境保全志向や公共事業に対する考え方の見直しのせいで、公共事業による環境破壊はてっきり減っているのではないかと思っていたが、さにあらず。以前よりひどくなっている箇所が増え、しかも釧路川の場合など現在進行中のものも多いようだ。日本の川は死に向かっている。それに伴い、川を利用して生活を営んでいた人々の生活自体もずたずたにされている。これは明らかに、行政による人災である。日本の原風景が魅力的で、そこに根ざした伝統的な生活にすばらしいポテンシャルがあるにもかかわらず、それが滅亡に向かっている。著者の本を読むといつも感じるのが、非常に魅力的なものが、愚か者の利己主義と無理解によって葬り去られていくという嘆かわしさである。読むたびに虚しさを感じるが、同時に、こういう愚行をはねのけるだけの力が、そこに住む人々と自然環境にあるんじゃないかという期待感も抱かせてくれる。前著ではまさにそうだったんだが、この本で紹介されている現状を見ると、なんだかそういった期待もあまり持てないんじゃないかと思ってしまう。もちろん、著者独特の楽観性というのも伝わってきて、やはり土着の人間が持つ力というのも信じてしまう。悲しくはなるが前向きにもなれる。

 この本は川旅の紀行文であり、旅の記録を淡々と書き連ねているに過ぎない。だが、その奥に横たわる哲学や感性、著者の記憶は、すべての日本人に共有してほしい感覚である。むろん、利己主義の官僚たちにもだ。それが著者の思いだと思う。そして少なくとも僕にはそれが伝わってきた。

 一つだけ不満を。写真があまりにも少ない。カメラマンも同行しており、おそらく雑誌(ビーパル)連載時は相当な数の写真が掲載されたんじゃないかと思う。(僕自身は)それぞれの川を訪れたことがないので、川の印象がよく伝わってこず(文章だけではやはり厳しい)、どの程度環境が破壊されているかも実感しにくかった。どの程度の川幅なのかなどもわかればもっと臨場感があったと思う。何枚か掲載されている写真はどれも質が非常に高く詩的である。ますますもってもったいない。

-随筆-
本の紹介『日本の川を旅する』New!!