江戸の瓦版
庶民を熱狂させたメディアの正体
森田健司著
歴史新書y
江戸文化の奥深さを知る
江戸時代の瓦版を紹介する本。
瓦版は、時代劇なんかで見ると、現代の新聞の号外と同じようなノリで配られているが、実際には瓦版自体が幕府から禁止されていたため、売り手は顔を隠してこっそりと売っていたというのが真相らしい。一方で口上みたいなものを交えながら(派手に)売ったという記述もあり、要は当局側が見て見ぬふりをしていたということになる。ただしその内容が幕政批判および心中ものになると、当局の態度が一変し、すぐに取り締まりの対象になったというから面白い。今の中国社会みたいである。
この本では、瓦版の内容も詳細に紹介されており、特に仇討ちと地震情報の瓦版にスポットを当てている。庶民の間で非常に人気があったのが仇討ちの瓦版で、中でも「女性による仇討ち」が人気を博したという。一方で質の悪い瓦版も多く、中には別の瓦版をパクった(したがって質が低い)バッタもんまであって、バリエーションは豊富である。一方できわめて質の高いものまであるらしい。地震情報については、被災速報や復旧情報などがいち早く瓦版で報道されたということで、しかもこちらは他の一般の瓦版と違って、情報がかなり正確でニュースとしての価値が高いと来ている。
また幕末のペリー来航に関わる瓦版も多数紹介されていて、こちらも非常に興味深い。特に庶民(というか瓦版)の当時の世界情勢に対する見方が鋭く(早い話が現代の我々の認識とあまり変わらない)感心する。一方でこの本の著者の歴史認識についてはやや甘さが見受けられたりするが、まあそれはご愛敬の範囲である。
この本から歴史を読み取るというような本格的なアプローチではなく、江戸文化を覗く一種の博物誌としてこの本に当たれば非常に有用なのではないかと思う。読みやすいし内容も面白いので江戸風俗に興味がある人にはお勧めである。