安政コロリ流行記
幕末江戸の感染症と流言

仮名垣魯文著、門脇大訳
白澤社

冗長で長すぎる解説は不要

 安政5年(1858年)、アメリカ船の乗員からコレラが長崎に持ち込まれ、それが日本中に広まってついには江戸でも大流行する。当時、コレラは致死率が高く、江戸でも3万人(全人口の3%)以上の犠牲者が出た。

 この安政5年の現象についてレポートしたのが本書の原作、『安政箇労痢ころり流行記』である。ちなみに著者は、明治期『安愚楽鍋あぐらなべ』や『西洋道中膝栗毛ひざくりげ』で名前を馳せた仮名垣魯文かながきろぶん。当時は新進気鋭のライターで、原稿料が安い上仕事が速かったため、この仕事の依頼が来たという。

 『安政箇労痢流行記』では、この病気で死人が大量に出て焼き場に棺桶が山積みになったことや、江戸市中での被害者、あるいはこの奇病に関連した奇談など、さまざまなエピソードが雑多に集められている。またオランダ医師による処方箋などもあわせて紹介されている。最後のページでは、白澤はくたくという想像上の生き物(世の中に平和をもたらす守り動物)の挿絵が掲載されている他、病気よけのお札まで付いていて、至れり尽くせりの配慮がなされた一冊である。

 この、おそらく歴史に埋もれていたであろう『安政箇労痢流行記』を、この御時勢ゆえであろうが、翻訳して世の人の耳目に曝そうとしたのが本書である。原文と現代語訳文、それから最後に解説文(「コロリ表象と怪異」および「大尾に置かれた白沢図とその意味」)が付け加えられている。

 原文では、オリジナルの挿絵もしっかり掲載されていて価値が高い上、現代語訳もよく訳せており、付けられた注も十分配慮が行き届いていてなかなか良い。ただ最後に付けられた解説(「コロリ表象と怪異」)は、無駄に長い上(解説にもかかわらず、なんと40ページ!)、焦点が定まっておらず、読みづらいったらない。この程度の内容の解説ならば、5ページ程度にまとめるべきであると感じた。もう一方の解説、「大尾に置かれた白沢図とその意味」は、絵入りで10ページ弱あったが、焦点が定まっていたため、それなりに興味深い内容でうまくまとめられていた。なお、この解説で紹介されているのは白沢(白澤)だが、この本の出版元も白澤社である。何か因縁でもあるのだろうかなどと感じる。

 全体的に学術書的なたたずまいで、もう少し読みやすくする配慮があっても良かったかなと思う。少なくとも、解説が書籍全体の足を引っ張るような構成にはしない方が良い。

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