おっさんの掟
「大阪のおばちゃん」が見た
日本ラグビー協会「失敗の本質」

谷口真由美著
小学館新書

自らの保身のために
変革者の足を引っぱるおっさんたちの実態

 2019年、ラグビーのプロリーグを創設するという計画が日本ラグビー協会で持ち上がり、そのためのプロジェクトチームが作られた。このチームを牽引したのが清宮克幸という人で、縦社会のラグビー協会では若手の部類に入り、異例の抜擢みたいな扱いだったらしい。とにかくこれまでの旧態依然とした体制を打破して、ラグビー界に変革をもたらそうという狙いが協会にあったようだ。もちろん、その狙い自体、元々はラグビー界の重鎮たちが目論んだものである。

 その清宮がスタッフとして抜擢したのが法学者の著者で、ラグビー界に直接繋がりを持つような経歴があったわけではない著者は、迷いがあって断っていたが、結局ラグビー界のために一肌脱ごうということで、それまでの職を整理して、ほぼ無給の理事職に就く。その後、清宮が新しいプロジェクトを進めていくのに伴い、著者を次々に重職に就けていき、改革を進めていこうとするが、結局清宮は排除され、清宮に代わってプロリーグ創設の責任者みたいな立場(新リーグ法人準備室長・審査委員長)に押し出される形になる。このあたりの人事も少し異常さを感じる。

 著者は、新リーグのためと奮闘して、新リーグに所属するチームの審査などを行っていたが、周囲のラグビー協会の重鎮たちから次第に非難や妨害が行われるようになり、最終的に決定した審査事項(各チームの1部、2部、3部リーグへの振り分け)がラグビー協会会長の森重隆の鶴の一声で反故にされる。しかも審査委員会に問題があったことにされる始末で、結局、著者らが推進した当初からの方針がまったくないがしろにされ、審査委員会も解散、著者も解任されるという憂き目に遭った。その顛末が、著者の立場から描かれるのが第1章から第3章までである。

 第4章では、部外者は口を出すなとか上の命令には黙って従えというラグビー協会幹部の保守体質について検討が加えられ、こういった保守体質が多くの日本の組織に共通する問題で、それがその組織の腐敗や凋落をもたらすのだということを主張する。そういう組織に見られるのが、そこそこ高い地位に就いているが、現状維持を望み、若い層などから出された変革のアイデアについてはことごとく反対し、場合によっては足を引っぱる人々で、こういう人々を著者は(多少のユーモアを交えて)「おっさん」と表現する。おっさんたちは、変革を行おうとする勢力に嫉妬し、あらゆる手段を使ってそれを阻止しようとする。彼らが望むのは、あくまでも現状維持。今の自身の地位を守りたいとする恐ろしく後ろ向きの姿勢で、彼らが属する組織や体制がどうなっても自分の身さえ守れれば良いという自己中心的な姿勢である。

 こういう体質は、僕自身も直接体感したことがあるんだが、とにかくありとあらゆる日本の集団に存在する。場合によっては僕自身も「おっさん」として機能していた集団がもしかしたらあったかも知れない。だがこういう保守体質があらゆる集団に蔓延していてそれが是正される兆しすらほとんどないのは、現代日本のあちこちを観察しているとよくわかる。政治にしても経済にしても社会にしてもこれだけ問題が山積みになっているにも関わらず、ここ30年間、一向に変わる気配がない。日本はすでに沈みかかっているのに、責任を持つ人々は保身ばかり気にかけ、一切変えようとしないのは、日々目にする風景である。

 僕が一番読みたかったのは、こういう保守体質の分析だったのだが、それが第4章だけに集約されていたのが少々残念な部分。もちろん第1章から第3章までのラグビー界の問題はケーススタディとして重要なのは重々理解している。

 なお、著者の在任中、サッカー界やバスケット界に革新をもたらした川淵三郎氏も協力的だったらしく、本書の冒頭にも著者との対談が掲載されているが、今回の改革失敗の原因は、改革をする側(つまり清宮氏や著者の側)に十分な権力が与えられていなかったことと喝破している。もっともそれについては、他所から呼ばれていきなり重責を与えられた著者にはどうすることもできなかったわけだが、ラグビー協会が本当に改革を望んでいたんだったら、本来そのあたりから調整すべきだったのは事実かも知れない。いっそのこと川淵氏が音頭を取ってラグビー界の改革をやっていたらうまく行っていたのかも知れないが、80歳を超える彼にそこまで望むのは無理なのかとも思う。

-社会-
本の紹介『大学病院が患者を死なせるとき』