ブルシット・ジョブ
クソどうでもいい仕事の理論

デヴィッド・グレーバー著、酒井隆史、芳賀達彦、森田和樹訳
岩波書店

「ブルシット・ジョブ」の本丸に迫る

 『ブルシット・ジョブの謎』という本を読んで関心が湧いたので、この本で扱われているグレーバーの原著、つまり本書にも当たってみた。『ブルシット・ジョブの謎』で語られていたように、読みにくい箇所やわかりにくい箇所が多く、読むのが苦痛になる部分が多かったが、ところどころ目を引くような記述(『ブルシット・ジョブの謎』で取り上げられていなかったもの)もあり、読んで損はないとは思わせるが、なにしろ通しで読むには厳しすぎる。分量が400ページ以上あり、原注も40ページ以上あると言えば、そのあたりも納得いただけるのではないだろうか。読みにくさの原因は、持って回ったような言い回しが多いことで、原文のせいか翻訳のせいかにわかにわからないが、特に社会的な背景について記述されている後半は、読みにくさに一層拍車がかかる。僕自身の感覚からいくと、「頑張って読み通した」という類の本である。

 著者は、2013年に「ブルシット・ジョブ現象について」という小論を書いて発表し、無意味で不必要と思える仕事(人材コンサルタント、コミュニケーション・コーディネーター、広報調査員、財務戦略担当、企業の顧問弁護士、「ある委員会が不必要であるかどうかを議論するための委員会に時間を捧げているような人びと」など)を取り上げてそれについて論じた。この小論がその後爆発的な反響を生み出すことになって、特に自らが「無意味で不必要と思える仕事」に従事し、日々空しさとやりきれなさを感じているという人々の体験談が著者の元に大量に寄せられたという。このような類の仕事で、しかも当人が「無意味で不必要」という認識を持っているものを、著者は「ブルシット・ジョブ」と呼んでおり、本書では「クソどうでもいい仕事」と訳されている。そしてとある調査によると、「世の中に意味のある貢献をしていない」仕事に従事していると自身で感じている人が40%近くに上るという(イギリスとオランダの世論調査による)。そこで著者は、あらためてブルシット・ジョブについて探求し、それを一冊の本にまとめた。それが本書である。

 その内容は、ブルシット・ジョブの定義や種類に始まり、それが増えている理由や社会的に認知されている理由まで多岐に渡る。全8章構成(序章「ブルシット・ジョブ現象について」、第1章「ブルシット・ジョブとはなにか?」、第2章「どんな種類のブルシット・ジョブがあるのか?」、第3章「なぜ、ブルシット・ジョブをしている人間は、きまって自分が不幸だと述べるのか?」、第4章「ブルシット・ジョブに就いているとはどのようなことか?」、第5章「なぜブルシット・ジョブが増殖しているのか?」、第6章「なぜ、ひとつの社会としてのわたしたちは、無意味な雇用の増大に反対しないのか?」、第7章「ブルシット・ジョブの政治的影響とはどのようなものか、そしてこの状況に対してなにをなしうるのか?」)で、そのタイトルを見るだけで、内容が見えてくると思う。適宜、著者の元に寄せられた経験談が紹介され、具体的に把握できるような工夫はある。

 著者は、ブルシット・ジョブを、「取り巻き」(flunkies)、「脅し屋」(goons)、「尻ぬぐい」(duct tapers)、「書類穴埋め人」(box tickers)、「タスクマスター」(taskmasters)の5つの類型に分けており、それぞれ、地位の高い人を偉く見せる存在、脅迫的な要素を持っていて他者の雇用に全面的に依存している存在(ロビイストやテレマーケターなど)、権力のある人がやった無用でデキの悪い仕事の後処理を行う人々、まったく無駄な書類を延々と作り続ける人々、ブルシットで過酷な仕事を割り当てる管理職を指す。こういった仕事が、現在どういう風に行われていて、それがなぜ蔓延しているかについて、本書を通じて考察するというわけである。そこには、「仕事をしない人間を怠け者と見なす」思考パターンや、「人間の労働を時間単位で切り取って雇っていると考える」思考パターンが背景にあり、そもそも現代社会で必要な仕事が、すべての労働者にフルタイムで割り当てられるほど多くなくなっていると言うのである。それなのに、人々は仕事を求め(仕事がなければ食っていけないために仕方がないが)、権力者も自らの恩恵であるかのごとく、人々に無意味な仕事を割り当てているために、今みたいな状況が生まれていると分析する。

 経済原則から考えると、不要な仕事があふれかえっているという状況は考えられない(そういう仕事があれば経済原則から自然淘汰される)とされ、そういう反論を著者も受けるらしいが、現在の社会は封建社会的な要素が非常に強くなっているため、資本主義経済の原則通りに動くわけではないというのが著者の主張である。

 内容はまだまだ多岐に渡り、興味深い部分も多いが、先ほども言ったように翻訳のせいか原文のせいか、とにかく読むのに骨が折れる。非常に斬新な概念で、ところどころもう一度見直したいというような箇所もあり、有用な書ではあるが、もう少し読みやすくする工夫があったら良かったのにと思う。

-思想-
本の紹介『ブルシット・ジョブの謎』
-思想-
本の紹介『負債論』