刑務所の中

花輪和一著
講談社漫画文庫

大真面目だが滑稽に映る

 異色のマンガ家、花輪和一は、1994年、銃刀法違反で逮捕され3年間に渡り刑務所に収監されてしまった。銃刀法違反の初犯で実刑になるというのも異例であったが、何だか裏の事情があったようなのである(一種のスケープゴートにされたようだ)。それはともかく、刑務所に入れられてしまった花輪氏は、出所後、刑務所内でしたためたメモや記憶を頼りに、刑務所内の生活を再現したマンガを描いたのであった。それがこの作品である。

 この作品、刑務所にあまり関係することのないほとんどの一般人にとってかなり意外性があるため、それだけで非常に存在価値が高いわけであるが、受刑者側の視点で他の受刑者や刑務所内の活動が描かれるという点でも極めて斬新であった。そのため、刑務所内の様子を紹介する従来型のドキュメンタリーとはリアリティが格段に違う。そういうことを考えると、この作品が世間の注目を集めたのも至極当然であった。そういうこともあってこの作品は映画化され、その映画作品が原作の味わいをかなり活かしたものであったため、当然のように社会的な評価も非常に高かった。映画でも原作を忠実に再現しており、エピソードもかなりの部分で共通していて、ムショ内の生活のおかしみや滑稽さも、マンガ同様余すところなく表現されていた。実は僕はかつてそちらの方を先に見ていて、あまりの面白さにその後原作に当たったのだった。今回読むのはそのときに続いて二度目ということになる。

 官物(施設所有のもの)の雑誌のクロスワードパズルに直接鉛筆で書き込んだことが理由で懲罰房に入れられた真面目な囚人や、懲罰房の封筒貼りの作業にひたすら精を出す著者の姿などが映画では極めて印象的だったが、本書にも当然その描写がある。関係者が全員、くだらないことに大真面目に取り組んでいる(しかも多くは元アウトローの人々であるにもかかわらず)姿が滑稽に映り、それを少し高い位置から俯瞰したように第三者的に描き出しているあたりが本書のキモである。内容は斬新で面白い上、絵も花輪和一らしく実に丁寧である。こういうことまでマンガ化してしまうという点で日本のマンガ界の裾野の広さを思い知らされた作品であり、特異な体験を作品として昇華した花輪和一には敬意を表したいと思う。

-マンガ-
本の紹介『刑務所の前 (1)〜(3)』