羅生門・鼻・芋粥・偸盗
芥川龍之介著
岩波文庫
芥川龍之介の極初期短編集
芥川龍之介の初期短編集。タイトル通り「羅生門」、「鼻」、「芋粥」、「偸盗」の4作で、解説と年譜を入れても200ページ弱という、読みやすい選集である。
どの作も、平安時代が舞台になっているいわゆる「王朝物」で、「羅生門」、「鼻」、「芋粥」は『今昔物語』や『宇治拾遺物語』が題材になっている。また「偸盗」についてもこういった説話が元になっている可能性があるらしい(解説によると)。
ストーリーは(原作ものであることもあり)しっかりと構築されており、それと同時に芥川らしい心理描写が巧みで、非常に面白い。特に「鼻」と「芋粥」については、心理描写もさることながら、文章が簡潔で無駄がなく、大変洗練されている。この作品を書いたのは芥川が24歳のときらしいが、それを思うと大した才能であると感じる。「鼻」と「芋粥」を漱石が絶賛したというのも十分頷ける。
「偸盗」は、スペクタクル溢れる中編小説であるが、やや作為に傾いているきらいがあり、他の作と比べるとやや落ちるかなという印象である。作者本人もこの作品は気に入っていなかったようで生前の作品集に収められていなかったらしい。背景は「羅生門」とよく似ており、舞台として羅生門が登場する。「羅生門」の題材を膨らませて「偸盗」にしたのか、あるいは「偸盗」を極限までそぎ落として「羅生門」にしたのかわからないが、「偸盗」には前の3作ほどのシャープさは感じなかった。ただ話としてはよくできており、心理描写に見るべき箇所があるなど水準も高く、作為が気にならなければ秀作の類に入る。この文庫版に収録したのもあながち間違いではないと思える。
芥川龍之介の作品集を読んだのは実に40年ぶりぐらいだが、読み手が年を重ねたために見えてくることもある。少なくとも(特に文体などで)前に読んだときより大いに感心したのは間違いない。他にも数冊、芥川作品の岩波文庫版を購入したので、これから読んでいこうと思う。