発達「障害」でなくなる日
朝日新聞取材班著
朝日新書
発達障害者対策は
あらゆる人々にとって有用
朝日新聞の一連の「発達障害」企画をまとめた本。
それまで気が付かなかったにもかかわらず、就職や進学を機に自身が発達障害であることがわかったというケースが世間には多いらしく、本書でもそのようなケースをいくつか紹介している。就職や進学を機に発達障害が判明するというのは、周囲の環境が著しく変化し自身がそれに対応できないことから気付きに繋がったということらしい。つまり、ADHDや自閉症スペクトラムなどの発達障害は環境によって大きな影響を受けるということで、場合によっては(その人に適した環境にばかりい続けた場合など)生涯、自身の発達障害に気付かないということもあるわけである。そのため、周囲の環境さえ整えば、発達障害者とされている人々でも、社会や企業にとって大きな戦力になる可能性を秘めているわけだ。本書の主張は、要するにそういうことである。
日本では、2005年に発達障害者支援法が成立し、しかも2014年に国連の障害者の権利に関する条約にも批准していることから、行政や民間事業者が発達障害者に対して合理的配慮を行う決まりになっており、2024年からはこれが義務付けられているらしい。それに従うならば、本来企業側は、発達障害者に対しても周辺環境を整えるなどの対策を取らなければならないのだが、実際は、発達障害者側の主張が怠け癖とかわがままというふうに受け取られ、合理的配慮が施されることも少ない。そういった風潮に対して一石を投じようというのが、この朝日新聞の企画だったのではないかと思う。
実際、発達障害者は現在激増しており、中には特定の分野で才能を発揮する人もいるわけで、そういう人たちをうまく活用することは企業にとってもプラスになるのではないかと僕などは思うが、日本の社会はいまだに平均主義を求めるため、ある方向で突出しながら別の方向で劣っているような人間は、受け入れられにくい。そしてそういった過剰な平均主義のために、発達障害でない人にとっても居心地が悪くなったり、耐えられなくなったりすることが多くなる。それを考えると、発達障害者対策は、あらゆる人々の環境改善にとって有用で、同時に過剰な平均主義を是正するための良いきっかけになって、大勢の人にとって社会の居心地が良くなるのではないかとも感じる。
中小企業だとなかなかそういう余裕もないかも知れないが、大企業や行政から少しずつ対応していけば、障害者とされる人々の才能が活用されるような時代も来るのではないかと思う。だが実際のところ、対応が一番遅いのが大企業や行政ということもままあり、そのあたり、何とも言えないところである。だが、これだけ発達障害者が増えている現状であれば、この変化に対応できないことがすなわち企業や集団にとって死活問題になるかも知れないということだけは気付いてもらいたいものである。