蓼喰う虫

谷崎潤一郎著
新潮文庫

面白いんすか、これ?

 谷崎潤一郎の異色作『蓼喰う虫』。『つれなかりせばなかなかに』の関連で読んだ。前も書いたが、谷崎潤一郎、最初の結婚相手である千代夫人を友人の佐藤春夫に譲ったことがある(いわゆる「妻譲渡事件」)。実は妻を佐藤春夫に譲る以前に、「夫」候補として別の男(大坪砂男という後のミステリー作家)がいて、その男と結びつけようとしていたというのが『つれなかりせばなかなかに』の趣旨で、その事情を小説に仕立て上げたのが『蓼喰う虫』だというのが同著作者の瀬戸内寂聴の主張だった。その話を知ったので、これはひとつ自分自身でも原作を読んでみなければなるまいと思い『蓼喰う虫』を読んだというのが今回のいきさつ。

 『蓼喰う虫』は、妻に女性的なものを感じなくなった男、かなめが、妻、美佐子と離婚すべきと考えるところから話が始まる。妻の方も同感のようで、子供は一人いるが、このまま無理して疑似夫婦を続けるよりはそちらの方が良かろうと思っているフシがある。疑似夫婦と言ってもセックスレス以外はとりたてて問題ないようで、今の日本にはこんな夫婦いくらでもいると思うが、ちょっと異色なのは、夫が妻の不倫を認めているという部分で、妻には阿曾という恋人がいる。夫の方も娼館に通ったりしているんだが、こういう状況で、夫の従弟、高夏が2人の間を取り持つ……というか煮え切らない状況を進めようとしたりするんだ。

 それで、この小説の中の要が谷崎、美佐子が千代、阿曾が大坪砂男、従弟が佐藤春夫に該当するということになるのかな。終わりの方で従弟と妻との関係がほのめかされるような箇所が出てくるが、具体的に触れられずにそのまま終わってしまうのがこの小説(だからと言って、全体的に説明が著しく少ないというようなものでもない)。

 途中、淡路島に人形浄瑠璃を見に行った下りが延々と出てきたりして、この部分必要なのと思ったりする。何の脈絡もないようなエピソードがあちこちに出てきて、ま、谷崎の日記だと思って読んだら読めなくもないが、ことさら面白いとも思わない。おそらくこれが実話を反映しているという話を聞いていなかったら、まったく読む価値を感じなかっただろう。この作品が今に残っているところを見るとそれなりに評価されているんだろうが、こういうのが面白いんすかと尋ねたくなるような話であった。

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