世にも美しい数学入門
藤原正彦、小川洋子著
ちくまプリマー新書
数学は文学や芸術に近い……らしい
小説『博士の愛した数式』の著者、小川洋子と数学者、藤原正彦の対談をまとめたもの。この藤原正彦という人、新田次郎と藤原ていを両親に持つという、いわば文学にも通じた数学者で、小川洋子が数学のさまざまなトピックについて藤原正彦から話を聴くという形式になっている。
全体の背景となっている考え方は、数学は、それ自体には(工学のような)有用性がないが、美しいものであって、文学や芸術に近い……というものである。藤原によると、数学者がやっていることは、神が自然の中に隠した法則を見つけ出しそれを証明すること(実際にできるかどうかは別だが、それを目指すこと)だそうである。
数学の美しさ、不思議さの例として、たとえば「三角形の内角の和が180度」という定理が取り上げられており、たしかに不思議と言えば不思議である。その他にもいろいろ取り上げられ、わかりやすく紹介されているが、中でも僕が一番感心したのはオイラーの公式
eπi +1 = 0(eのπi乗 = -1、eは自然対数の底)
である。この公式の意味は本当のところ僕にもよくわからないが、これがなぜ不思議なのかは本書を読めばよくわかるようになっている。まことに不思議で、数学の奥深さを実感できる。
また日本人の美的感受性が数学に非常に合っているとも藤原は言う。数学というのは美意識が問われる学問だそうで、実際に数学分野での日本人の功績というのは非常に大きいのだそうだ。ノーベル賞に数学賞があれば20人以上受賞しているんじゃないかと藤原は行っている。また、なぜノーベル賞に数学賞がないかについても簡単に説明している(アルフレッド・ノーベルと、ある数学者が恋敵だったそうで)。
他にも『博士の愛した数式』に出てくる友愛数や完全数などについても解説があり、基本的には『博士の愛した数式』関連で数学の話が進められていく。本来であれば難解であるはずのさまざまな定理が、その定理の発見者の人間面から説明されていることもあって、内容が面白くまた大変わかりやすい(実際僕が、上のようにオイラーの公式に触れるなど、読む前は予測すらつかなかった)。
何か良い数学史の本はないかと思ってこの本を借りたんだが、数学入門として非常にわかりやすい(対談という形式も良い)恰好の良書であった(数学史という点では少しもの足りないかなとも思う)。藤原正彦には、幾多の数学者たちを取り上げた『天才の栄光と挫折』という本もあるようで、こちらにもいずれアプローチを試みたいところである。