零の発見 ―数学の生い立ち―

吉田洋一著
岩波新書

「古典的名著を読んだ」という感慨はある

 1939年に初版が発行され、いまだに売れ続けているという古典的著作。標題となっている「零の発見 ―アラビア数字の由来―」と「直線を切る ―連続の問題―」の2編で構成されている。内容は、数学史にまつわるさまざまな事象をとりとめもなく説明していくというエッセイ風の構成になっていて、どことなく大学教養部の授業のような内容である。ちなみにこういう表現、個人的によく使うんだが、最近では教養課程の授業がない大学が多いらしい。ということは今どきの若者には「大学教養部の授業のような」といってもピンと来ないのかも知れない……。

 閑話休題。率直に感想を言うと、前半の「零の発見」はそれなりに面白く感じたが、「直線を切る」の方は受け付けなかった。問題意識の持ち方も共感できないし、内容もわかりにくい。記述も平易とは言いがたい。話が随分脱線して余計わかりにくくなるし、それに説明も中途半端だったりする。内容がギリシャ数学で多少興味がある分野だが、もう少し何とかならないものかと思ったりした。

 「零の発見」の方は、これに比べるとはるかに読みやすく、問題意識も十分共感できる。何より「0」を導入したことにどれほどの重要性があるかよくわかる。また、それとあわせて、アラビア数学とその後のヨーロッパ数学、もちろん「0」を発見したインド数学もだが、各地域の数学的発展の特徴が示されていて、それが歴史とどう関わり合っているかもわかり、通俗的読みものとしてはよくできている。途中から例によってあらぬ方向に脱線してしまい、内容が煩雑になっているが、まあなんとかついていける範囲であった。しかしまあ、全体的に「古典的名著を読んだ」という以外、得るところはあまりなかったような気もする。こちらの数学的知識の欠如のせいかもしれないが。

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