マンガ おはなし数学史
これなら読める!これならわかる!
仲田紀夫原作、佐々木ケン漫画
講談社ブルーバックス
躍動感のあるマンガで
数学の歴史を俯瞰
数学の歴史をマンガで紹介する本。
中学や高校で行われる数学の授業では、幾何学や微分積分、三角関数などが同列で語られるが、実際には幾何学は古代ギリシャ、微積分法は17世紀のヨーロッパ(ニュートンとライプニッツが発見者と言われている)で確立されたもので、三角関数は中世から近代のヨーロッパの大砲術との関連で発展したという。また、確率論はギャンプルに勝つためにできたものだったらしい。数学教科ではこういったものが、雑多な状態でまとめて教えられるが、実はそれぞれの事項はさまざまな時代、地域に起源を持つのである。そういうことを知ってから、いずれは数学史の本を読んでみようかなと思い、手始めに入門書としてマンガ形式のこの本に当たった。全編マンガではあるが、内容は割に高度でまったく侮れない。しかもマンガを担当している佐々木ケンも、これまで学習マンガを多く描いている方のようで、話の進め方が非常にうまい。絵はちょっと雑な印象はあるが、それを上回るほどのうまさで話が展開していく。原作者の仲田紀夫も、数学と教育に携わってきた数学者で、この方の力も大きいのだろうと思う。
名仮田先生がセミナーで、参加者の中学生、高校生、老人、教育課の担当者の4人に数学史の講義をしていくという展開で話が進められる。その際に、どの時代のどの場所にもワープできる「いつでもどこでもドア」というツールを使う(「どこでもドア」じゃないのかというツッコミも当然出てくる)。で、それぞれの時代に飛んでいきながら、各論について語っていくという趣向である。
随所に飽きないような工夫があって、ギャグもちりばめられている。たとえば、「無限」の研究をしたカントールという数学者の項で、カントールが「無限」の研究に没頭したために「そして無間地獄を見たのです」とだじゃれを飛ばし、その次のコマで自ら「あれ? あんまりうけませんね」とフォローするなどといったシーンがある。マンガのコマ運びのテンポが非常に良いのにも感心する。
全体的に数学史についてうまく概説できているが、集合論は哲学的な問題とも関わるためか、内容がかなり難しくなり、一読しただけではよくわからない。その辺は著者も認識しているのか、登場人物のセミナー参加者の目が回ってしまっているように表現されている。内容のややこしさをうまく説明できていない著者側の言い訳みたいにもとれるが、同時に内容が高度なために容易に理解できないものであることが暗に示されていて、その辺は考えようによっては親切とも言える。
僕自身この本を通読して、数学史を概観するのに非常に役立ったわけで、そういう点を考えると本書の目的は十分達成されていると思う。それに数学が哲学と密接に関わっていることもあらためて認識できた。学習マンガも馬鹿にできないなと思わせる力作であった。