観応の擾乱
室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い
亀田俊和著
中公新書
これも論文調で読みづらい
目新しさもあまりない
室町時代が始動してまもなくの1351年、南朝と北朝の争いに加えて、幕府内部でも主導権争いが起こった。これが世に言う「観応の擾乱」である。当事者は、室町将軍、足利尊氏の執事にして軍事を担当していた高師直と、尊氏の弟にして当時の行政を担当していた足利直義である。この二人を軸に、尊氏、そして息子で第二代室町将軍の義詮、その他の武士たちも絡んで来るが、その抗争をほぼ時系列で描いたのがこの本である。
内容は、(詳細ではあるが)概ね一般的に知られているようなもので、それほど目新しさはない。強いて言えば『太平記』で悪しざまに書かれている高師直の復権(『太平記』の記述の多くがフィクションの類とする説)が、新しい視点と言える。
一方で登場人物が非常に多く、途中でわけがわからなくなってくる上、だんだん疲れてくる。そのため通しで読むのは結構骨が折れると思うが、アマゾンの評ではべた褒めする記述が多いようで、少々違和感を感じる。ベストセラーになった『応仁の乱』とも共通するが、ともかく内容が論文風であり、いろいろな箇所で、ある学者の説に異を唱えたりする。だが、そういうレベルの記述が、この類の本を読むような(専門家以外の)一般読者にとって必要なのか、良く考えてから書いてほしいと思う。なんと言っても新書なのだ。要は、登場人物についてある程度の性格付けをして、編年風あるいは列伝風に描くのが、入門書としては最適である。それに加えて、新しい視点をもたらすような書であればなお良い。
近年、学術新書でこういった論文風の歴史書をよく目にするが、編集者もそういう点について根本的に見直してもらいたいと思う。こういう論文本は言ってみれば著者の自己満足に過ぎず、一般向けの書物としては完成度が低すぎると言わざるを得ない。専門家向けの論文は別のところで発表すべきである。