ビギナーズ・クラシックス 太平記
武田友宏編
角川ソフィア文庫
ダイジェストの鑑
『ビギナーズ・クラシックス』シリーズの『太平記』である。『太平記』は、鎌倉時代末期から室町時代初期に至るまでの歴史を辿る軍記物語で、全40巻構成の大著。元弘の変、正中の変あたりから建武の新政、観応の擾乱、足利尊氏と足利義詮の死あたりまでが描かれている。因果応報や道理という考え方がベースになっており、全編を儒教的な思想が貫いている。原文は『平家物語』風の和漢混淆文であり、割合読みやすい。原文で読んでもある程度の訳注があれば読みこなせると思うが、なにしろ相当な分量があるためなかなか読んでみようという気にならない。
この『ビギナーズ・クラシックス 太平記』はその点、全体を網羅しながら、途中途中で原文をピックアップして解説している。しかも全40巻のすべての巻で原文を抽出すると同時に、内容をダイジェストで紹介しているため、『太平記』を読了した錯覚さえ覚える。拾い方が非常に丁寧で、「ダイジェストの鑑」と言って良いほどの仕上がりである。このシリーズ屈指の著作の1つと言っても過言ではない。構成は、他の同シリーズと同様、内容の要約に続いて、原文の現代語訳、原文という順に並べられていて、最後の最後に作品紹介の解説、さらに付録として略年表、皇室・源氏・平氏の系図、地図(大雑把すぎるが)まで付いている。至れり尽くせりである。
同じ『ビギナーズ・クラシックス』シリーズでも、同様の歴史物の『ビギナーズ・クラシックス 史記』や『ビギナーズ・クラシックス 十八史略』は実に食い足りないものだったが、本書『ビギナーズ・クラシックス 太平記』はそれと好対照をなしていて、その点でも本書の秀逸さが際立つ。たとえダイジェストであっても、良いものとそうでないものがあるということだ。
本の紹介『太平記 (上)(中)(下)―マンガ日本の古典』
2021年8月22日
本の紹介『観応の擾乱』
2022年2月28日
本の紹介『源頼朝像 沈黙の肖像画』
2022年3月10日
本の紹介『ビギナーズ・クラシックス 保元物語・平治物語』
2022年7月9日
本の紹介『ビギナーズ・クラシックス 大鏡』
2021年7月2日
本の紹介『平家物語 (上)(中)(下)―マンガ日本の古典』
2021年8月21日
本の紹介 『ビギナーズ・クラシックス 史記』
2021年6月24日
本の紹介『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 十八史略』
2021年6月29日