ヘイトスピーチと対抗報道

角南圭祐著
集英社新書

差別主義者が日本から一掃される日は来るのか

 日本のヘイト、つまり民族差別の状況を報告する本。中心になるのは、対朝鮮(著者は「コリア」という言葉を多用している)差別である。一つは日本の対朝鮮人(在日朝鮮人を含む)差別活動が特に多いため、もう一つは著者自身の関心の対象が朝鮮人差別にあるためである。ちなみに著者は、現在、共同通信の記者である。

 本書は、「ヘイトスピーチと報道」、「ヘイトの現場から」、「ネット上のヘイト」、「管製ヘイト」、「歴史改竄によるヘイト」、「ヘイト包囲網」の6章構成になっており、各章を通じて、ヘイト活動が特定集団に対する明白な差別行為であって決して容認できない行為であることを訴える。実際日本国は、国際人権規約や人種差別撤廃条約に批准、加入していて、公的には差別を認めないことになっているため、本来であればヘイト行為は、重大な犯罪行為に当たる。しかし現状では、「管製ヘイト」の章で示されているように、政府自らが韓国、朝鮮に対してあからさまに差別活動を推進している。かつて1993年の河野談話、95年の村山談話を通じて従軍慰安婦制度の解明も進んでいたにもかかわらず(軍の関与、強制連行の事実など)、かつての安倍政権はその事実すらないことにするような態度に出ていた。徴用工問題についても(実際は企業と個人の問題であるにもかかわらず)日韓の国際問題に転化させることで、反韓感情を広めていた。安倍政権、菅政権は、徴用工問題について、日韓基本条約で解決済みという姿勢を見せているが、実際は、個人間の訴訟についてはその対象ではなく、現に、2010年には日本製鉄と韓国人徴用工との間で和解が行われている他、三菱マテリアルと中国人労働者との和解の例もある。基本的に国外で活動している企業は、当地の裁判結果に従わざるを得ないため、これまでそういう方針で活動してきているが、今回の韓国大法院での判決(新日鐵住金に対する損害賠償命令)については日本政府から各企業に対して賠償支払いに応じないよう圧力がかかったという。要するに政府主導で反韓感情を盛り上げているというのが著者の論である。これについては僕自身、いくらか誤解があり、今まで「賠償請求権は放棄したもの」と思っていたため、目からウロコであった。

 とにかく、ここ20年間の、国内の急速な右傾化は目に余るものがあるが、それが実は管製のものであったという事実は今までなかなか僕自身気付かなかった。もちろん、ネットやSNSの影響がもっとも大きく、だからこそ右翼政権が誕生し命脈を保っているということはわかっていたが、論理のすり替えを公然とやり、政府が差別行動に加担しているという現実には、はっきりとは気付いていなかった。お恥ずかしい限りである。

 本書は差別される側からの視点が随所にあり、そのために、マジョリティの立場にいるとなかなか気付きにくいことが見えてくる。右翼連中がしきりに攻撃材料にしている「(従軍慰安婦記事についての)朝日新聞の捏造」についてもしっかり議論が行われていて、ヘイト推進側の論理の破綻がよくわかるようになっている。

 自分の行為が間違っていると気付かないまま他者を攻撃するダメ人間が増殖している現状は嘆かわしいが、そういう人々に対して対決姿勢を示す運動(いわゆる「カウンター」)が各地で展開されているのは、せめてもの救いである(第6章「ヘイト包囲網」に詳しい)。僕自身は、「差別は重大犯罪」という意識が広まらない限り日本はますますろくでもない国になってしまうのでは、という危惧を抱いた(おそらくそれが著者の主張だろうが)。いつも「反日」などという言葉を投げかけて人を罵っている差別主義者の方が、むしろ日本国を貶める存在(つまり「反日」だ)なのであるということがよーくわかった。

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本の紹介『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2』