「ドイツ帝国」が世界を破滅させる
日本人への警告

エマニュエル・トッド著、堀茂樹訳
文春新書

タイトルがセンセーショナルすぎるが
内容もかなりセンセーショナル

 タイトルがセンセーショナルすぎるため眉唾ものの印象もあるが、エマニュエル・トッドの著書なんでなかなかないがしろにもできない。そういうジレンマはあったが、実際のところ書かれていることは、決していかがわしいものではなく、むしろかなり斬新であった。

 本自体は、エマニュエル・トッドがさまざまな媒体で受けたインタビューを日本語に翻訳して集めただけの非常にいい加減なもので、取るに足りないが、しかし書かれている内容は、ちょっと無視できない非常に斬新なものの見方にあふれている。現在のドイツは民主主義を体現し、EUとユーロ圏を拡大することで自由主義をヨーロッパ全域に広めているというような印象が一般にはあるが、著者によると、このEUとユーロ圏自体が、ドイツの植民地主義的経済体制を構築するための機構になっているというのだ。ユーロ圏の中でドイツだけが一人勝ちしていて、周辺の低賃金高教育の旧共産圏諸国で安い優良な労働力を確保し、それが自国の産業を成功させることにつながっている。これが一種の植民地体制になっているというのがトッドの説である。そしてそのドイツが一人勝ちする状況が第一次大戦前のヴィルヘルム2世の時代と似ていて、これを放置しておけば、アメリカの影響力の低下と相まっていずれ取り返しのつかない方向にドイツが向かって行くと言うのだ。今の日本からの見方では、このようなドイツに対する評価はちょっと予想外ではあるが、まったくデタラメという感じもしない。なんだか非常に目新しい歴史の見方を提示されたようで、少なくとも一考に値すると思う。著者によると、唯一こういった状況に歯止めをかけられるのがフランスであるが、今のフランスはドイツの言いなりで、そういう役割は期待できないと切って捨てている。例によって家族制度や人口統計などを駆使しているのも著者らしい。

 面白い論点が多いが、最大の難点は翻訳が良くない(日本語がこなれていないため、何が書いてあるかよくわからない部分が多い)ということと、著者がしきりに書いているヨーロッパの状況が、あまりに細かすぎて、僕などの一般の日本人にはよく理解できないという点である。また先ほども言ったように、インタビューをただ集めただけという安直さも全体的に見られ、それぞれのインタビューには重複しているような箇所も結構ある。ドイツやユーロに対する見方を一新することはできるが、本としてはあまり質が高くないとあえて言っておこうと思う。だがトッドの著書を安価に提供するという姿勢は称賛に値する(他のトッドの本はどれもかなり高価)。

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本の紹介『帝国以後』
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本の紹介『グローバリズム以後』
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本の紹介『問題は英国ではない、EUなのだ』
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本の紹介『第三次世界大戦はもう始まっている』
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本の紹介『老人支配国家 日本の危機』
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本の紹介『トッド 自身を語る』