PCRは、RNAウイルスの検査に使ってはならない

大橋眞著
ヒカルランド

PCR検査にまつわる神託が
打ち破られる

 タイトルを見てわかる通り、新型コロナウイルスの検出のために使われているPCR検査に疑義を呈す本。著者は、感染症・免疫学の専門家である。

 現在、新型コロナウイルスに感染しているかどうかは、すべてPCR検査を通じて判定される。まさにPCR検査は、新型コロナ禍にとっては金科玉条のような扱いで、ワクチンの問題性についてはあちこちで取り上げられるが、PCR検査自体の問題性が取り上げられることは少ない。そもそもPCR検査自体に問題があるのであれば、現在のコロナ禍のあり方自体が大きく変わるはずである。少なくとも、無症状感染者などというわけのわからない存在はなくなる。無症状であるにもかかわらず他人に感染させる可能性があるということで隔離されていた人が大勢いたわけだが、その論理的根拠がなくなるためである。

 ところが実際は、PCR検査がどういうものであるか知っている人はあまりに少ない。著者によると、その意味が本当にわかっていてそれについて語れる人は、ごく一部の専門家以外いないのではないかということで、それほどマニアックな検査法であるという。本書ではPCR検査について、その仕組みが紹介されているが、要は、プライマーと呼ばれる遺伝子の鋳型を用意して、それに対応する遺伝子配列(テンプレートという)が増殖するようにし、そこでできた遺伝子配列を倍々で増やしていくというものらしい。そのために、検出したい物体の遺伝子配列がはっきりわかっており、それが変異することなく、ある程度同じ構造を取り続けなければならないということになる。つまりプライマーが、実際の病原体の遺伝子配列を反映していることが絶対的な条件になる。

 ところが、新型コロナウイルスのようなRNAウイルスは、頻繁に変異する(著者の本書での机上の計算では4カ月で5%程度)ために、プライマーが、早い段階で鋳型の役割を果たさなくなる(探す相手の形の方が変わってくるため)。そういうようなわけで、PCR検査を発明したマリスは「感染性のウイルスを検出できない」と生前語っていたらしい。なおこれは、AIDSの原因とされるHIVをPCRで検査しようとする勢力に対して述べた言葉である。

 しかも現在使われているプライマーが、どういう遺伝子構造なのかもはっきりわからない。新型コロナウイルスが最初に発見された中国・武漢の学者が遺伝子構造を特定し、それがプライマーの原形として使われているということだが、それが正しいかどうかさえ実のところ怪しいらしい。しかもPCR検査で使われるプライマーは、全体のごく一部の遺伝子配列であるため(約750分の1)、そこから全体像を捉えることができるのかという問題もある。そういったことを考えると、今の新型コロナウイルス特定のためのPCR検査は、最初に同定されたとされる遺伝子配列が正しく、しかもそれがいまだに同じ遺伝子配列を持っていて、さらにはそのごく一部の断片から、その元の遺伝子構造全体を特定できるという想定の下でないと、まったく意味がないというのである。だから「PCRは、RNAウイルスの検査に使ってはならない」という結論になるわけだ。このあたりは、理路整然と論理が展開されるため、大変わかりやすい。

 そもそも我々一般人は、PCR検査について何も知らなかったわけで、「高名な」科学者がまことしやかにこれで新型コロナウイルスを特定できると言っているのを、内容についてろくに検証しないまま、真に受けているだけなのだ。いって見ればある宗教者が、何らかの根拠を示しながらこの神託は正しいと主張していて、大衆がそれを信仰しているのと同じ構造なのである。そもそも現代社会のように専門分化があまりに進んでいれば、その専門性ゆえ、ほとんどの人には意味がわからないという事象が巷に多々存在している。したがって、別の立場に立つ専門家が、それについておかしいという発言をすることはきわめて重要である。実際、著者のPCR検査に対する説明は、説得力があり、僕にとってはこちらの方がはるかに信憑性が高い。

 しかし同時に、現在の知識の根源というか、基盤になっているものについても考えざるを得なくなる。我々が常識と考えているものが果たして正しいのか、その背景になっている常識が真実と言えるのか、科学という仮面をかぶっているが、本当に科学的な実証が行われているのか、一つ一つについてきちんと検証しなければ、真実は見えてこない。今回のコロナ騒動の周辺では、似非科学がはびこっていて、専門家が、自らの思い込みを真実であるかのように語って、その信仰が世間に蔓延している。自ら考え、自ら情報収集に当たらなければ、いくらでもミスリードされてしまうという状況が生み出されている。そして、驚くことに、専門家や知識人と言われるような人々を含め、世間の多くの人々があらぬ方向に、いとも簡単に誘導されてしまうということが今現在、展開されている。これでは、原始宗教や新興宗教にはまっている人を愚かだと笑うことができない。我々自身が、科学という名の下に一種の信仰を築き上げていることが、今回の騒動で明らかになったと言えないだろうか。

 なお、本書についてだが、内容はともかく、市販本という視点で見ると、非常にレベルが低いお粗末な作りと言わざるを得ない。誤植が多い上、ほとんど同じ内容のことがらが、何度も何度も別の場所に出てくる。図の説明も非常にわかりにくい。全体的に推敲が足りていないという印象で、いって見れば初校の前の段階で本にしてしまったという、そういうイメージである。編集者がちゃんと仕事しているのかというような疑問さえ感じ、そのために、本作りに対しての熱意が感じられない。出版元は、ヒカルランドというところで、他にも陰謀論に基づくコロナ本をいろいろと出している他、スピリチュアル系の本も出しているようだ。この本については、陰謀論やスピリチュアリズムとは一線を画していて内容自体は非常に濃密であるが、買うに値しないと考える。ぜひ、図書館で借りて読んでいただきたい。

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