督促OL 修行日記

榎本まみ著
文藝春秋

カスタマーハラスメントの現場が垣間見える

 信販会社のコールセンターで、もっぱら支払い督促業務を行っているOLのエッセイ。著者のブログがネタ元なんだろうが、全体的によくまとまっているので、あらためて書き下ろしたものかも知れない。

 なんと言ってもふだんあまり目や耳にしない業界の話なので、内容が目新しく珍しい。督促と言っても、かつての悪質なサラ金の取立みたいなものは現在法律で禁止されているため、もっぱら電話と書面でお願いするという形になるという。債務者を追い込むような悪質な取立てどころかむしろ、債務者側からひどい罵声を浴びせられたり脅迫されたりということも多いそうだ、本書によると。そのせいもあって、辞めていく人が非常に多いらしい。精神を病んでいく人もあるという。

 本書では、就職氷河期まっただ中の著者が何とか信販会社に就職でき、喜んでいたのもつかの間、督促業務に配属され地獄を見るというところから話が始まる。当初は同僚の中で最低の成績しか上げられず、客の激しい叱責に落ち込んだり、早朝から夜中まで続く過酷な業務に苦しんだりしながら(身体にも異変が出てきた)、やがて自分なりに客への対応方法を模索して、ついには責任ある立場にまで上ったという一種の成長譚である。

 しかしそれにしても、実際に本書で垣間見る業務の内容は非常にハードで、耳を疑うようなものばかりである。「今からそこに行って殺す」とか「火をつけてやる」とか言う客もいるらしく、客だからといって(客と言っても債務者なんだが)そこまで暴力的な言動が許されて良いのかとも思う。毎日がそういう人間否定の中にいれば参ってしまうのもごく当たり前というもんである。ただ著者は、実際に客に対応する中でさまざまな処方箋を身につけていくが、こういった対処法も本書で紹介されていて、こういうものは心理学的側面から見ても非常に興味深いものがある。

 平易かつ素直な文章で書き綴られ、ちょっと作文風ではあるが、書かれている内容が実に深いので、驚いたり感心したりすることの方が多い。欲を言えば、具体的なやりとりや対処方法をもっと多く紹介してほしかったが、しかしそれでも得るところが非常に多い立派な本であった。特に人間とのつきあい方や話し方、言い換えると心理学的なアプローチについて学習する上で大変役に立った。

追記:
お金を取り立てたいときは、直接的に「入金されていません」と言うと相手を怒らせることが多いので(攻撃されていると感じるんだろう、たぶん)、「いつだったら払えますか?」と疑問形から入ると、相手もとっさに支払うイメージを具体的に持つことが多く、怒らせることはないらしい。こういう情報がたくさん欲しかったんだな。

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