消費者金融ずるずる日記

加原井末路著
フォレスト出版

国策に翻弄された業界
もっともかつては
市民を翻弄していた業界だったが

 フォレスト出版の「日記シリーズ」の一冊。かつてこのフォレスト出版のことを「怪しげな出版社」などと書いたが、本自体はしっかり作られており、誤植の類も少ない。企画はどれも興味をそそるもので、しかも構成もしっかりしており、「怪しげな」という形容は実のところ当てはまらない。この場を借りてお詫びして訂正したいと思う。

 今回読んだのは、消費者金融会社ディック(本書では「デック」と記述)に20年間勤めたという人の体験談。消費者金融会社の貸付、取り立ての実情や体験談を元社員の視点で忌憚なく語ってくれている。もっとも消費者金融と言っても、70年代から80年代みたいな強引な取り立てはすでに禁止されていた時代で、取り立てについても割合穏便に行われているため、普通の企業とそれほど大きな違いはない。一方で、消費者金融については90年代から2000年代にかけて制度改正がたびたび行われ、債務者による過払い請求が頻繁に行われるようになった結果、事業自体が立ちゆかなくなり、多くの業者が縮小・廃業している。著者がかつて務めていた「デック」も、シティバンクの買収を経て、廃業している。著者自身もその過程で退社を余儀なくされ、転職しようとしたがうまく行かず、何とかバイトにありつけたものの、住宅ローンを含む多くの借金を抱えていたために生活が立ちゆかなくなり、個人再生(借金の整理)手続きを行うことになった。だが結局住宅ローンの返済ができなくなって、家も手放すことになった。著者自身が借金のせいで、人生に躓くことになったのだった(現在は再生している模様)。

 著者の経歴自体が、部外者にとってはなかなか興味深いわけだが、それ以上に興味深く感じるのは借り手側の生態観察みたいな部分である。しかも著者自身も借り手になっているため(他の消費者金融に数百万単位の借金があった)、借り手の心情からその行動を解き明かすようなこともできており、結果として多面的なアプローチができている。

 僕自身は負債が嫌いで借金がないため、消費者金融の立場も借り手の心情もあくまで他人事ではあるが、そういう人間にとっては特にいろいろと興味深い情報が満載で、十分楽しめただけでなく、いろいろとためになった。

 なお著者名は、加原井末路という仮名になっているが、これは「過払いの末路」からつけた名前だろうと思われる。また登場人物の名前もすべて仮名だが、同僚は鬼塚、竹原、石松、渡嘉敷、大橋、白井などとなっている(同時代のボクシング関係者の名前から取っているようである)他、借り手の顧客は落合、大久保、松井、新井、井口、栗山などとなっている(プロ野球関係者から取ったようである)。このあたりもなかなか面白い。

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