電通マンぼろぼろ日記

福永耕太郎著
フォレスト出版

広告業界もいっそまるごと洗濯したら?

 フォレスト出版という怪しげな出版社から「日記シリーズ」というシリーズ本が出ている。15本以上は刊行されているようで、大学教授や、いろいろな業種のサラリーマン、特殊な職業の人々がその内実を暴いている。本書もその中の1本で、日本最大の広告代理店、電通の営業マンの内実暴露ものである。

 電通と言えば、近年パワハラや談合などの問題でつとに有名になっているが、70年代以降テレビの広告取り扱いで急成長したテレビ時代の申し子のような企業である。著者は、その電通に80年代に入社し、営業畑で30年以上勤めてきたが、左遷を機に自主退職したという経歴を持つ。営業職として、電通の汚い部分を目にし同時に汚い仕事にも手を染めており、自分なりに会社に尽くしてきていたが、電通の規模縮小化に伴い、肩たたきに遭って結局定年前に退職することになる。その後、妻から離婚を申し出され、やむなく離婚。しかも一時期はアルコール依存症のような状態にまでなって身体を壊し、終いには自己破産するに至った。電通時代は、かなり羽振りが良く、しかもある程度の金を自由に動かせる立場でバブルを謳歌していたようだが、最終的には健康と家族を失う結果になったわけである。昭和の日本のサラリーマンの縮図みたいにも映り、企業に使い捨てにされる様子は同情を誘うが、客観的に見れば、もっと早く周囲の状況に気付いて会社から離れていれば良かったような気もする。もっともそれは結果論にしか過ぎない。渦中にいる当事者が、そういった問題性に気付くはずもない。

 (本書の目玉でもある)紹介されている電通時代の仕事の内容は、外部の人間からすると非常に興味深いものである。そういう点で、僕にとってもなかなか面白い本であった。電通には一般的な企業と似たような部分も当然あるが、(少なくとも営業部門は)全体的にものすごく体育会系というか軍隊風の旧式の組織であることがわかる。そこでは先輩や上司の命令が絶対であるため、上司がクライアントから安請け合いした仕事を処理するよう命じられ、残業を強いられるなどということも頻繁にあったようだ。また部下の功績を自分のものにするような上司も当然のごとくいたりする。電通自体にこのようなパワハラ体質があることがわかり、当事者たちがそれについてあまり疑問を持っていないことも窺われる。

 著者も一生懸命仕事に取り組んでいるが、社内の力学から社外に出向させられ、しかもその会社の失敗の責任まで取らされ、閑職に飛ばされる。こういった著者の経歴からはサラリーマン生活の悲哀が見てとれる。

 電通は今や政府からも大きな仕事を受注しているようで、その内実が本書で紹介されているようなものであれば、決して看過できない問題になってくる。電通内で見られる異常な企業カルチャーは今となってはもはや許容されないレベルであり、本当であれば企業ごとなくした方が良いような存在ではないかとも思えるが、いずれにしても、電通、それから広告業界を含め、日本国内のあれやこれやを今一度洗濯いたす時が来ているのではないかとあらためて感じてしまったのだった。

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