大学教授こそこそ日記
多井学著
フォレスト出版
大学の教員の事情を
しっかりぶっちゃけた本
「KG大学」で教授職に就いている著者が、大学教授という仕事についてかなり率直に語った本である。
大学教授という仕事は、我々が学生だった頃は優雅で立派な仕事に見えたもので、僕自身もいずれは研究職にと思って大学に進学したのである。だが、実際に専門課程に入り自分の目でその現実を目の当たりにして、その保守性や閉鎖性、後進性に呆れかえって、すぐによしたという経緯がある。だがそれでも、教授職に就いてしまえば、自由な時間を確保でき、研究費もふんだんに使え、(閉鎖的ではあるが)講座内で君臨できる優雅な職という印象はあった。もちろんそこに辿り着くまではかなり無理しなければならないだろうとは思っていたが。
だが数年前、大学で准教授を務める知人から、今の大学教員は、欠席の生徒にいちいち電話して事情を訊いたり、生徒の進路の面倒を見たりしなければならない(つまり我々が学生だった頃の状況と著しく違う)という話を聞いて、かなり驚いたのだった。僕はその話を聞いて、まるで高校じゃねーかと思わず口に出したのだった。大学も随分変わったもので、教授職が決してかつてのような優雅なものではなくなっている(特に独立行政法人化した国立大)ということを思い知った。
本書でもそういう事情が語られており、著者はこれまでS短大、T国立大、KG大学で教鞭を執っているが、その内情についてかなり詳細に明かしている。大学名はイニシャル表記で、登場人物もすべて仮名、著者も仮名になっているが、少し調べれば大学名と著者の正体については容易に判明する(そもそも「KG」はあの大学の愛称だ)。かなり突っ込んだ内容もあり、こんなことを書いて大丈夫か心配になるが、少なくとも現職のKG大学については(いろいろな事情が率直に語られているが)問題になりそうなことは書いていない。
中でもS短大については、いろいろな事情が率直に語られていて、特に興味深かった。この短大、今で言うところの「Fラン」大学みたいな存在であるようだが、学内の組織が、無給の奉仕を要求するようなパワハラ体質で、しかも給与も破格の安さと来ていて、底辺大学は待遇も底辺だということがわかる。当然、学生の質もひどいものである。ちなみにこの大学、その後破綻し、現在S大学に編入されて「S短期大学部」になっている。
その後に勤務した国立大やKG大では、待遇は大幅に良くなるが、それでも教員間のもめ事に悩まされたり、やる気のない学生の指導をやらなければならなくなったりで、苦労は絶えないようである。このあたりは多くの大学で共通することなんだろうが、外部の者にはわかりにくいそういった事情がしっかり明かされていて、その点で(外部の者としては)非常に面白かった。同じく大学の内部事情を明かした『大学入試担当教員のぶっちゃけ話』よりもはるかにぶっちゃけていて、こちらは「「優」をあげたくなる本」だった。
特に注目に値するのは、大学教員の間で、博士号を取得するための手段として単著本を出版するケースが多いという話で、道理で内容の乏しいくだらない本が雨後の筍のように出されるわけだと合点した。「歴史学などの文系」にそういうケースが多いということで、学位論文みたいな歴史関連の新書が多く出されている現状についても、これで納得が行った。実際に「学位論文」だったわけである。金を払って低レベルの学位論文を読まされたりしたら叶わないが、それが現実ということである。事情がわかったので、今後はこの手の本には手を出さないことにする。
総じて、大学教員の内情がよく明かされており、ああいった世界とお近づきにならなくてホント良かったと感じるような本であった。今のように大学制度が地に落ちてしまうと日本の学術が今後ひどい状況になりそうで、早めに手を打たないと壊滅的なことになるのではないかと常々感じていたが、本書による内部からの視点で、その見方が裏付けられることになった。そういう点でも興味深い内容だったと言える。