FAKEな平成史

森達也著
KADOKAWA

素晴らしい本ではないが
相当エキサイティングな議論ではある

 令和の始まりに際して、まもなく終わる平成という時代をあらためて俯瞰してみようということで企画された本。映像作家の森達也が自身の作品(『放送禁止歌』、『A』、『FAKE』など)をテーマにして、関係ありそうな人と対話することで、時代背景を掘り下げていく。

 元々は『本の旅人』という雑誌の連載だそうで、そのためか少々安直な企画という雰囲気がなきにしもあらず。ただし全体を通奏低音のように流れる「ものの見方」みたいなものが随所に垣間見えて、非常に興味深い。タイトルにつられて平成史として読むと拍子抜けするかも知れないが、しかし、著者独特の「ものの見方」によって照らし出される社会背景が、平成日本の社会をよく反映しているとも感じる。

 著者が主張しているのは、日本人があらゆる物事に過剰に「忖度」するため、ありもしない規制で自らを縛ったり、自身の考え方や行動まで制限したりしているということであり、これは十分納得できる議論である。オウムの事件についても、犯罪に関わったメンバーが(教祖の麻原までもが)場の雰囲気を忖度した、つまり空気を読んで行動したため、組織としてのコンセンサスが通常では起こり得ないところまでずれていってしまったという解釈であり、非常に斬新と言える。もっともどのような集団でもそういった逸脱が起こり得ることは容易にわかる。だから決して目新しい議論ではないんだろうが、こうしてことばで表現してもらえると「目からウロコ」になる。そういう点でいろいろな発見があった本である。

 第2章「差別するぼくらニッポン人」(『ミゼットプロレス伝説』〈著者がかつて作ったドキュメンタリー〉を題材にして差別意識を掘り下げる)、第3章「自粛と萎縮に抗って」(『天皇ドキュメンタリー』〈著者の未放送作品〉を題材にして皇室報道に対する忖度を扱う)、第4章「組織は圧倒的に間違える」(『A』、『A2』を題材にして組織がメンバーの忖度で暴走することについて考察)あたりが一番面白い部分だった。とは言っても、全体的にダラダラした印象があり、雑誌的な「何となく」作っているような雰囲気は全編に漂う。森達也の面白さや魅力がよく発揮されていて面白い(つまり通奏低音の部分が面白い)が、本としては少々だらしないイメージが最後まで漂う。面白い人と会話してしばらく経った後みたいな読後感と言ったら良いかな。

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