チャップリン自伝〈上〉 若き日々
チャールズ・チャップリン著、中野好夫訳
新潮文庫
見本のような自伝
当時の英国下層社会の様子も窺える

喜劇王、チャールズ・チャップリンの自伝。貧困の中で育ち、さまざまな職を経て、やがて舞台の喜劇役者として頭角を現し、ついには映画でヒットを飛ばすまでを描く。ちなみに読むのは今回2回目。
当然ながら一種のサクセス・ストーリーであるが、成功する前の貧困の度合いが超弩級で、19世紀末のイギリスの社会情勢もよくわかる。どん底からなんとか這い上がろうとする姿もエキサイティングである。また「一夜明けたら有名になっていた」というようなエピソードも本書の終わりの方に載っていて、これも面白い。1910年前後の映画黎明期の撮影事情も、新参者(つまりチャップリン)の目から描かれていて資料的な価値もある。記述は、とりたてて自分を飾り立てるようなこともなく、割合冷静である。そういう意味でも自伝の見本みたいな本である。
なお、40年近く前に僕が読んだときはこの1冊で完結していたが、その後後半の日本語版が出版された。現在後半を読んでいて、後半の序盤から著名人が大量に出てきて興味深いが、なんせ映画界で成功してからの話であるため前半ほどの波瀾万丈はなさそうである。永らく後半が出なかったのもわかるようなわからないような。前に読んだときは、妙なところで終わっているんでヲイヲイと思ったが、ちゃんとした判断に基づいていたのかも知れない。あるいは翻訳者、中野好夫の仕事が単に遅かったせいかも知れないが。