自転車が街を変える
秋山岳志著
集英社新書
自転車道の提言……
だがちょっともの足りない

自転車で通勤する人が(特に都市部で)増えているという。かく言う僕も、東京でのサラリーマン時代、もう30年以上前になるが片道10kmの道のりを自転車通勤していた。だから今流行りの「自転車ツーキニスト」(この言葉、嫌いだが)の先駆けということになる。
自転車で通勤するに当たって一番困るのはやはり走行路で、日本の道路行政といえば、ホントにもう自動車中心主義が徹底していて、自転車はまったく眼中にないかのようなのだ。通勤となるとどうしても毎日のことになるから、少しでも危険性があると命取りになりかねない。そんなわけで、自転車通勤していた頃は、広い歩道のある道路や公園を選んで通勤コースを作っていた。だから、ドイツとかオランダとかの自転車事情をテレビで見たりするとうらやましくてしようがなかった。日本で自転車を安全に運行できる日が来るのか、まったく期待できない状態が随分続いていたわけだ。
自転車道を設けて、自転車を歩道から下ろそうという動きが出て来たのは本当に最近である。それでも、たまにテレビで自転車が取り上げられたかと思うと、自転車が危険だとか、駐輪が邪魔だとか自動車目線ばかりで、相変わらずマスコミ連中の意識の低さを露呈してしまうのが現状である。だがいずれにしても、自転車のインフラを整備しようという機運が少しでも高まっているのは大きな進歩である。もっとも、現在あちこちで作られている「自転車道」は使い物にならないものが多いのも実情であるが。
で、そういう自転車インフラの現状を報告し、同時に英国での自転車インフラ事情を報告しようというのが本書の主旨である。実は英国も少し前まで今の日本と似たような状況で、自転車が尊重されるような風潮もなかったという。そういう意味では、ドイツやオランダの状況よりもはるかに今の日本にとって参考になるとも言えるわけで、その点でその項が本書の目玉であると言っても良い。
内容は主に、自転車道をどのようなものにすべきかという提言で、それについて著者の感じるところを具体的に書いている。十分納得のいく主張ではあるが、よそでも触れられているような話が多く、あまり目新しさはない。英国の事情の紹介が目新しいと言えば目新しいが、英国の自転車システムにしてもまだ完成形にはほど遠いわけで、同じ道筋を目指す上での参考にはなるが、なんとなく中途半端な印象があってもの足りない。こういう本が増えて日本にも自転車社会が実現すれば良いとは思うが、本としてはかなり薄味の「どうってことない」本だったように思う。


