博論日記

ティファンヌ リヴィエール著、中條千晴訳
花伝社

愚痴をずっと聞かされているような内容

 フランス製のマンガ、バンド・デシネである。

 貧しい地域(ZEP)の(生徒の質が悪い)中学校で教員を勤めていた主人公が、不満を募らせてその職を辞め、希望を持って大学の博士課程に入るところから話が始まる。将来的に大学で教職を得るという夢を持ってのことである。だが大学博士課程の現実は、決して希望に満ちたものではなかった……というようなことを紹介する一種のエッセイ・マンガ。もっともある程度フィクションが混ざっているようにも思えるため、厳密にはエッセイ・マンガとは言えないかも知れない。元々は自身のブログに掲載していたものが原型だそうである。

 著者自身、実際に博士課程を中退しており、本書で描かれている多くのエピソードが著者の経験に基づくものと考えられ、結果的にフランスの大学院の実態がよく伝わるようになっている。大学の保守性、担当教官のやる気のなさ、くだらない手続きの煩雑さなど、その長い伝統ゆえのことかも知れないが、日本の大学以上に(無駄に)高いハードルが目の前に横たわっていて、著者はその様子を、研究対象のカフカの作品とシンクロさせながら描いている。本書で描かれる日常は辛く、3年の課程が(論文が仕上がらないため)5年、6年とずるずる延びていくことも多いという。そして主人公もその一人。また、収入がないことから金銭的な問題も出てくる。要は、財力または奨学金がなければ博士にはなれないということらしい。

 登場する担当教官や事務職員に対してはかなりシニカルな見方で描かれている他、冷たい言葉を浴びせてくる家族や知人についても冷ややかな描き方がされている。こういった描写を通じて、主人公が置かれた辛い立場はよく伝わるようになっている。
 絵は雑な印象だが、表情などはしっかり描かれていて、それほど悪くない。ただ、人間関係の面倒くささばかりで、内容的にあまり面白みがない……というか愚痴をずっと聞かされているようなものであるため、読んでいて共感できなければ苦痛でしかない。こういうテーマもありだとは思うが、日本で今後『オーバードクター日記』みたいなものが出たとしても、あらためて読もうという気にはならない。

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