日本語の起源

大野晋著
岩波新書

興味深い日本語起源論
反対意見がどのようなものか興味がある

 国語学者の大野晋には僕自身若い頃かなり影響を受けていて、彼が展開する国語学の議論の面白さに惹かれたものだが、ただ、彼が主張する「日本語の源流が南インドのタミル語とする説」(クレオールタミル語説というらしい、ウィキペディアによると)は、面白いが少々眉唾かと思っていた。この本はまさにその「クレオールタミル語説」の主張を展開する本だが、今回読んでみて、その考察は決して侮れないと感じた。

 当然、国語学者らしいアプローチがこの説の本流であり、日本語とタミル語に共通した単語が非常に多い(著者によると500語、比較的似ているとされる日本語と朝鮮語でさえ200語という)ところが始まりである。しかも音韻の違いを考慮すると、似ているというより同じと言えるような単語もかなりある。そのあたりは巻末で詳細にリストされている。このあたりは、おそらく大野晋の自信の表れではないかと思う。

 その後、弥生文明をもたらしたのがタミル人であるという想定の下、弥生文化とタミル文化の共通点を双方の遺跡から指摘する。支石墓や甕棺墓などの墓制の共通点の他(これは弥生時代の特徴とされている墓制である)、特異な形の土器の共通性、金属器や土器に付けられているグラフィティ(象徴的なピクトグラム風の絵)の共通性なども指摘しており、弥生文化とタミル文化にかなりの類似性が見られることを指摘する。このあたりはインドの学者たちとの共同研究もある。さらに「マツル」、「アハレ」、「スキ」などの精神世界の共通性に言語からのアプローチで迫るという具合に、国語学、言語学だけでなく、考古学から文化人類学にまで広範に展開される推理は説得力がある。これだけの証拠を出されたらあまり論難できないんではないかと感じるほどだが、それでも強烈な批判はあるらしい。新説に反対するのは、保守的な学術界には良くある話ではあるが、そういうレベルでの批判なのか、それともこの節に捏造したような部分があるいはあるのか、そのあたりは僕には検証しようがない。最大の批判は、タミル地方と日本列島の間に、連続性がない(つまり人の移動があったとは考えられない)ということらしいが、これはしかし、時代と共に移動が可能であったことが証明される可能性もあるため、批判としては説得力がない。正直なところ、どのような反対意見があるか興味があるところだが、いずれにしてもこのタミル語起源説、検討に値する斬新かつ有力な説ではないかと感じる。少なくとも日本語がウラル・アルタイ語系だとする程度の反論では、反論にならないんじゃないかと感じた。

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