古典文法質問箱

大野晋著
角川ソフィア文庫

参考書だけど参考書じゃなかった!
学の本質に迫った本

 『日本語の文法を考える』の大野晋が古文学習者向けにまとめた古文文法の書。とは言っても、そこは古典研究者、某ゼミナールの人気教師が出しているような学習参考書とは趣を異にしており、「活用を憶えろ」だの「格助詞と接続助詞を区別しろ」だの、そういうことは書いていない。むしろ、なぜ係り結びの法則が存在するかとか、助動詞がどういう動詞から転化してきてどういう意味を持つのかとか、根源的なというか、学術的なアプローチが多い(ただし、こういった記述の多くは『日本語の文法を考える』にも共通した事項で、あの本を読んだ人にはあまり目新しさがないかも知れない)。

 本書全体を通じて、古典文法についての質問を立て、それに対し著者が回答していくという構成になっていて、それぞれの質問は「文法の基礎知識」、「用言(動詞)」、「助動詞」、「助詞」、「諸品詞・敬語・修辞」の各章に分類されている。内容は相当深く、知的興味がそそられる項目が多い。が、古典学習入門者にとっては少々敷居が高いかも知れない。ある程度古典文法の知識がある人か、あるいは純粋に知的関心で読む人でなければ、あまり役に立たないと感じるかも知れない。ただ、高校のありきたりの古典教育にうんざりしているような人が読めば、得るものは大きいと思う。学問の目的は憶えることではなく、感じて探求していくものだということがわかるだろう。そういう点で(優等生以外の)高校生にもお奨めできると思う。

 何よりも古典文法が時代によって変遷しているという(実に当たり前の)ことを明言しているのが良い。こういうことは通常高校では教えない。だから係り結びの法則を憶えろなどと頭ごなしに言われたりするんだが、そもそも鎌倉時代以降、係り結びはほとんどなくなるわけで、本当はそのことの方が大事なんじゃないかと思う。言葉が生き物であることを考えれば、文法が変わるのは当たり前であって、そういう前提で古文にアプローチするのは至極当然である。この本は、そういった、学問に対する態度など根源的な部分を学習者に教えるという点で、学問を志す人に適した良書だと思う。

-国語学-
本の紹介『日本語の文法を考える』
-国語学-
本の紹介『日本語の起源』
-国語学-
本の紹介『日本人のための日本語文法入門』
-漢文-
本の紹介『漢文法ひとり学び』