武蔵野

国木田独歩著
岩波文庫

国木田独歩の初期短編集
未熟なものもあるが佳作もある

 国木田独歩の短編集である。代表作「武蔵野」が収録されていることから表題が『武蔵野』になっているため、随筆集かとも感じるが、実際は明治30年頃、つまり著者が二十代の頃に書いた短編小説が集められている。佐々城信子と離婚したばかりの時期であるため、失恋についてウジウジと書いた随筆風の小説も何本かある(「わかれ」や「おとづれ」など)。

 収録されている作品は、「武蔵野」をはじめ、「郊外」、「わかれ」、「置土産」、「源叔父」、「星」、「たき火」、「おとづれ」、「詩想」、「忘れえぬ人々」、「まぼろし」、「鹿狩」、「河霧」、「小春」、「初孫」、「初恋」、「糸くず」の全18作である。「源叔父」、「鹿狩」、「初恋」などが佳作で、20代の若者が書いた短編小説であることを考えあわせると、全体的に水準が高いと言える。

 国木田独歩と言えば、「武蔵野」に代表されるように、英国の自然派詩人、ワーズワースの影響が随所に散見されるわけだが、その影響は「武蔵野」以外の作品についても当てはまり、どの作品にも自然描写がふんだんに出てくる。特に「源叔父」は、九州の海辺の城下町が舞台だが、海や山の描写が見事で、詩情をかき立てる。ストーリー自体も劇的で、さすがに代表作とされるだけのことはある。

 前に独歩の短編集を読んだのは40年以上前(新潮文庫)で、そのときは「武蔵野」以外あまり感じるところはなかったが、今回読んで、十分楽しめる作品もあると感じた。文学史的な背景を考えると、こういう作品群が書かれたのはある意味奇跡的とも言える。独歩の短編小説についてはもっと評価が高くても良いのではないかという気もしてきた。

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