和解

志賀直哉著
新潮文庫

自分には好ましく思われなかった

 志賀直哉の中編小説。タイトル通り、父との間の不和が解消するまでの過程を描く私小説である。この間、著者の身辺には、1人目の子どもが死に2人目が生まれるという出来事が起こる。また、尾道、京都、我孫子と引っ越しを重ねており、実家に足が向きにくい状況も語られる。とはいっても割合頻繁に実家を訪ねてはいる。もちろん実家にいる不和中の父とは会わないわけで、会うのは祖母や義理の母、妹たちとだけである。義理の母は2人の関係に気をもみ、祖母もずっと気にかけている。その一方で主人公の方は、自分の妻や、死んだ子ども、生まれた子どもに対する実家の態度については不満を持ったりもする。私小説らしく心情も細かく書き綴られていくが、どことなく日記の域を出ないような印象も受ける。本文中には友人のM、Yなどが出てくるが、Mは武者小路実篤、Yは柳宗悦であると内容から推測できる。「画家のSK」は誰だか分からない(調べたところ九里四郎という人らしい)。

 文章は短いものを重ねていくという志賀直哉らしいもので、世間では彼の文章を名文と褒め称えているが、文章がうまいという印象はそれほどない。むしろ短い文章が拙さを感じさせるような部分もある。「自分は」が多用されるのも下卑た印象をもたらす。

 志賀直哉の人生を知るには良いが、小説としての面白さはあまりない。ただ他の作品(『大津順吉』や『好人物の夫婦』)が書かれたいきさつなども触れられていて、そこらあたりは資料的な価値があるかも知れない。ただしそれも志賀直哉ファンにとってはということだが。

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