歎異抄 (現代語訳版)
金山秋男訳
致知出版社 いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ
親鸞思想の斬新さが分かる
浄土真宗の開祖、親鸞の弟子である唯円が、親鸞の悪人正機の思想を分かりやすくかみ砕いて紹介する書が『歎異抄』である(著者については異論もあるようだ)。
この書で紹介されている悪人正機説は「善人なほもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」という文句が非常に有名で、要するに、自力に頼らず阿弥陀如来に完全に帰依すれば誰(善人だろうが悪人だろうが)でも極楽往生を遂げられるという思想である。善悪という価値観自体人間が作った価値観であるため、それを超越した存在である阿弥陀如来にとっては一切関わりがない。阿弥陀如来の前で100%謙虚になって全幅の信頼を寄せさえすれば誰でも往生できるという考え方(だと思う)。現代人も自然の前で100%謙虚になれば、昨今のような環境破壊もないだろうが、そういうことすら考えさせられる本でもある。それにしても悪(や世俗)を否定しない考え方は斬新である。当時、浄土真宗(および浄土宗)の僧たちが(その革新性ゆえに)迫害を受けたというのも頷ける気がする。
各章ごとに現代語訳と原文、その後に解説が続くという構成である。現代文は割合平易な日本語ではあるが、内容自体が結構難しいし、非常に抹香臭いというか、宗教的な記述が多く(宗教書だから当然なんだが)、必ずしも読みやすくはない。たとえば
「阿弥陀さまの本願に救われて念仏する身となって、やり遂げようという慈悲は、私たち凡人が、本願の力により人間の思いを超えた阿弥陀さまの大いなる慈悲の心で、思うように生きとし生けるものを救うというものです」(第四章)
のような文章があるが、決して分かりやすいとは言えないと思う。ただそれでも最後まで読むと、言わんとすることは概ね掴めてくる。また『歎異抄』がどのような意図で発表されたか、このタイトルの意味は何か、どういう構成になっているかなどについて丁寧な解説があるため、『歎異抄』入門として良い素材になっている。『歎異抄』を読んでみたい、内容に触れてみたい、悪人正機説がどういうものなのか知りたいなどという人々には適していると思う。
なお本書には、前序、第一章から第十八章、後序、流罪記録までが一通り収録されている。おそらく原作のすべての内容が収録されているんじゃないかと思う。