本居宣長『うひ山ぶみ』

本居宣長著、濱田浩一郎訳
致知出版社 いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ16

資料的な価値……かな

 「いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ」の16は、本居宣長の『うひ山ぶみ』。これも渋いラインナップで、普通本居宣長と言えば『古事記伝』や『玉勝間』などが出てきそうだが、『うひ山ぶみ』とは……!

 タイトルの『うひ山ぶみ』と言うのは「初山踏み」という意味で、学問の道の端緒についたばかりの人、つまり今から学問の山に登ろうとする人に対して、経験者が山登り、つまり学問の経験を語るという体裁で書かれた書である。ただ、ここで対象になっている学問というのが、いわゆる「国学」であり、日本の昔からの尊皇思想を学ぼうというような、今振り返ると「復古主義」的な学問であるため、現代に通じるものはあまりない。「国学」を今から勉強しようという人がいればまた別だが、普通の人が読むにはほとんど役に立たない。万葉集を勉強するのが良いとか、日本書紀より古事記の方が純日本的なので良いみたいなことが書いてあるが、そもそも本居宣長の古事記解釈や日本書紀解釈自体、今読むとかなり恣意的であまり賛同できないと来ている。

 これを現代語に翻訳した濱田浩一郎は、あとがきの「解説」で、現代人にも響く言葉があちらこちらにあると書いているが(「学問は、ただ年月長く、飽きずに怠けずに、頑張ることが大切なのだ」、「それだけは究めねばいけないと、初めから高い志を立てて勉学に励むべきである」など)、僕自身はあまり響くものを感じなかった。ただこういった古い書を現代語で書き起こしたということには価値を感じる。それに現代語訳もまずまずよくできている。ただ一方で、現代語訳が必要なのかという疑問も涌くが(原文は江戸時代後期の書きことばであるため、それなりに読める)。もっともこれを原文で読んでいたら途中でやめていたかも知れない。この本については表紙に「64分で読めます」と書いているし(おそらくそのくらいで読める)、しかも原文も併記されていて、その点でも親切。まあ、本居宣長がどういうことを語ったか確認したいという向きには適切な書ではないかと思う。言って見れば資料的な価値ということになるだろうか。

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