漢字伝来
大島正二著
岩波新書
真摯な本だが読みづらい
漢字が大陸から日本に伝搬し、それがどのような方法で利用されるようになったかについて検証した本。
当初日本では、大陸での使用法と同じ漢字文のまま公文書などに利用された漢字であるが、その後、漢字の読み方に訓読み(意味から来た当て字)が当てられるようになる。やがて日本語の助詞などを表す目的でも漢字の音が使用されるようになった。言ってみれば漢文の送り仮名の位置に漢字を使うような方法(宣命書き)が定着し、これがかな文字の生成につながっていったというのがおおよその流れである。それ以前にも、日本の固有名詞を漢字の音を使って表記するというようなことも行われていたようで、朝鮮半島経由で漢字が伝来したという見方がされている。
またその他に、漢字が日本以外の文明圏、たとえば元王朝(パスパ文字)、金王朝(女真文字)、遼王朝(契丹文字)、西夏(西夏文字)、朝鮮(ハングル)、ベトナム(チューノム)にどのような影響を与え、漢字を基に、それぞれの固有の文字が作られていったいきさつについても語られており、中国文化圏における文字学(そういうものがあればだが)の格好の入門書になっている。ただし内容は少々難しく、記述が学術書寄りであるため、読みづらさを感じる。ただ、既出の用語についてその言及ページがマメに表記されているなどの配慮があって、本としての作りは丁寧である。
漢字の文化的な価値に加え、漢字が、日本を含めた周辺の民族にいかに影響を与えたかまで理解でき、中国文明の偉大さに触れるよすがになる。漢字の価値や日中文化史をもう一度見直したい向きにお奨めである。
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