漢文の素養 誰が日本文化をつくったのか?

加藤徹著
光文社新書

江戸の出版事情には驚いた

 漢文が日本列島に伝わり、その後、歴代の支配者および支配層や庶民層がどのように漢文と関わったかについて論じる書。

 記述は平易で読みやすいが、歴史観が通り一遍であるため、特に古代史の部分では非常にありきたりな記述で、実に物足りない。この時代はわかっていないことが多いため致し方ないのかも知れないが、全体の半分近くが古代史の部分に相当するため、印象はあまり良くない。この部分は第1章から第4章までに相当するが、第4章に至っては、漢文と歴史の関わりというより、いわゆる日本史レベルの記述が多く、非常に退屈する。また第5章「中世の漢詩文」についても、日本史の域を超えない記述が多く、この辺でかなり飽きてきた。

 ただ第6章の「江戸の漢文ブームと近現代史」で描かれる、江戸時代、明治時代の漢文エピソードは、なかなか読ませる。特に江戸時代、清国の禁書(『清三朝実録採要』や『清三朝事略』など)や朝鮮の外交機密(と言ったら大げさだが、『懲毖録ちょうひろく』という書物)が江戸や京都の町で公然と販売されていたという、江戸の出版事情に触れた箇所はきわめて印象的である。

 ということで本書の目玉は第6章、後は割合ありふれた歴史記述という評価になる。この本を読もうという方は、第6章のみで十分という気がする。

-漢文-
本の紹介『漢文法ひとり学び』
-国語-
本の紹介『漢字伝来』