マタギ

矢口高雄著
ヤマケイ文庫

「マタギ」という言葉が有名になったのは
このマンガからだ……たぶん

 「自然と人間との関わり」を描き続ける矢口高雄のフィクション・マンガ。今回テーマになっているのは、東北の猟師集団、マタギである。

 私の記憶が確かならば、「マタギ」という言葉が全国的に知られるようになったのは、矢口高雄のマンガからではないかと思う。

 矢口は1972年から『マタギ列伝』というマンガを連載していたが(評判は上々であったにもかかわらず)突然連載が中止されるという憂き目を見た。その後、別の出版社から話があり続編を描くことになった。それがこの作品、『マタギ』であるそうな(本書あとがき「マタギの思い出」より)。もちろん『マタギ列伝』と『マタギ』は完全な続きものではないが、主人公が「野いちご落しの三四郎」であり、その彼の冒険譚であるという点は共通である。本書『マタギ』には、この三四郎のエピソード以外に、百造というシカリ(頭領)、百造の下で働く勢子(追い出し役)の源五郎のエピソード、あるいは感動的な狐の話まであり、非常にバラエティに富んでいる。なんせこの文庫本だけで800ページを優に超えている。しかも『マタギ』の本編に加え、その後に「最後の鷹匠」という30ページ弱のおまけのエピソードまで付いている。非常に豪華な文庫本と言える。僕自身は山と渓谷社が文庫本を出していたことも知らなかったが、そこからマンガが出ていたこともつい最近まで知らなかった。それなりのお値段ではあるが、絶版ものが多い矢口作品で今でも継続的に販売しているというのは立派。ただし難点もあり、元々の文字が小さすぎたせいか、この(縮小されている)文庫版では読むのにかなり苦しむ箇所があちこちにあった。

 メインになっているのは、先ほども言ったように、マタギの三四郎のエピソードで、この三四郎が、最終的には、小玉流という隠れ女流マタギ集団に関わることになるなど、話は奇想天外な方向に進んでいく。人が(つまりマタギがだが)鉄砲を使うことの可否まで問われるというかなり壮大なテーマにまで発展していくが、最後は収拾がつかなくなったようで突然のように終わってしまう。こういうこともあってか、著者自身はこの作品を「不肖の息子」と呼んでいるらしい(これも 前出「マタギの思い出」より)。

 湖に怪獣が出てきたり、狐がダイナマイトを使ったりというストーリー展開はいかがなものかと思うが、ストーリー自体はどの作品もかなりよく練り上げられていて、同時に矢口高雄の自然観も巧みに表現されているなど、少年向けマンガとしては非常にグレードが高いと言える。そのためもあり、この作品は、「不肖の息子」であるにもかかわらず第五回日本漫画家協会賞を受賞することになったのだった。著者は複雑な心境だったようだが、しかし相応の賞を受けるだけの立派な作品であることは疑いないところである。

第五回日本漫画家協会賞大賞受賞

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