「ひきこもり」救出マニュアル〈理論編〉

斉藤環著
ちくま文庫

著者の主張は納得できるが
理論面がかなり薄いため
わかったようなわからないような印象が残る

 日本のひきこもり研究の権威、斉藤環が書いた実践的な引きこもり対策の本。と思ったが、全体的に何となくモヤモヤする。

 全編、Q&A形式で、ひきこもり関連の質問に答えていくという方法論であるが、医師との対処法などかなり実践的な内容で、もう少し「ひきこもり」という現象を俯瞰した解説が欲しかったと感じる。元々、この『「ひきこもり」救出マニュアル』は、一冊の本であったが、それが文庫化されるに当たって〈理論編〉と〈実践編〉の2分冊になった。そして今回読んだのが〈理論編〉だったため、そういう点で物足りなさが残ったのかも知れない。〈理論〉的なものは少ないという印象で、むしろ〈実践〉の方が多い気もする。

 具体的には、ひきこもりは放っておいてもほとんどのケースで治ることはない、ひきこもり当事者自身も葛藤しているため「働け」だの「外に出ろ」などという言葉は厳禁である、親と当事者の繋がりを健全な状態に改善すべき、治療は親だけでも良いから受ける、治療機関は(費用をはじめとする諸条件を鑑みると)精神科の病院が一番良い、当事者に対して一緒に治療を受けないかという誘いかけを常に行う、本人が一緒に出るようになったら第三者を介在させるようにする、というようなことが書かれている。外界との繋がりを少しずつ増やすというのがひきこもり脱出の方策のようである。ただしひきこもりには精神病のケースも混ざっているため、その辺は特に注意が必要であるということも書かれている。

 僕がもっとも驚いたのはひきこもり人口が120万人にも上るという記述で、今の世の中ではひきこもりは決してレアケースではないということがわかる。いずれかなり大きな社会問題になるのは目に見えているので、各機関が、早急に対策に取り組まなければならないと感じる。

 なお、文庫版特有のことだろうと思うが、本書の他の項に言及している箇所で、参照ページ数がことごとく2ページずれている。大変拙いミスである。ただし、今回読んだのは第一刷であったため、もしかしたらその後修正されているかも知れない(その後新刊を買ってみたが修正されていなかった)。

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