不合理だからうまくいく

ダン・アリエリー著、櫻井祐子訳
ハヤカワ・ノンフィクション文庫

快著『予想どおりに不合理』の続編

 『予想どおりに不合理』に続く、ダン・アリエリーのわかりやすい行動経済学の本、第2弾。前著同様、経済原則から見ると非合理的な人間活動について紹介していく。そしてまた、その人間活動の非合理性を証明するためのさまざまな実験とその結果が詳細に紹介されているのも前著と同じ。前著ほどの斬新さや意外性はないが、本書でも数々の不合理な事実が明らかにされていく。

 本書で取り上げられている不合理な行動は、職場での行動と家庭での行動の2つに大きく分けられ、それぞれ5項目ずつ示されている。

 職場での行動は、

  1. (アメリカの企業で見られるような)高すぎる報酬は効果を上げる働きがない(むしろ効果を下げる働きがある)。
  2. 働くことに意義が見いだせない場合(「シジフォス」条件)、作業者の効率も、成果も効果も低下する。
  3. 自分で労力をかけて作ったものには愛着が湧き、それに対する評価も上がる(イケア効果)。
  4. 自分の出したアイデアには愛着を感じ、他人のアイデアより評価する傾向がある(自前主義バイアス)。
  5. 長い目で見ると自分にとって損であっても、不当な扱いを受けると報復行動を取るのが人間の性である。

の5項目。

 一方、家庭での行動には、

  1. 人間はなんにでも順応する。その際、そのプロセスを中断すると順応が遅くなるため、楽しいことをやる場合は中断を入れることでいつまでも楽しさを持続でき、嫌なことは一気にやってしまえばそれに順応しやすいため不快さが持続しにくい。
  2. 容姿に恵まれた人は容姿に恵まれた人同士で付き合うことが多い。
  3. 人間の不合理な性質を無視した商品やサービスは失敗する(具体的にはオンラインデート・サイトを取り上げている)。
  4. 人は大勢の苦しみより、一人の苦しみに心を動かされる(顔のある犠牲者効果)。
  5. 短期的な感情で短絡的に取った行動は、その感情が消えてしまった後の行動にも影響を及ぼす。

の5つが紹介されている。最後の「短期的な感情による行動がその後も影響を及ぼす」は非常に啓示的である。つまり何かのきっかけで機嫌が悪いときにある人に敵対的な態度をとった場合、それがその後の接し方にも影響するというもので、肝に銘じておくべき事実である。人間関係を良好に維持する上で、これほど示唆に富むことはあるまい。

 正直、「容姿に恵まれた人同士が付き合う」などにわかに信用できない項目もあって100%同意というわけではないが、それでも得るところが大きいと思う。それに記述が平易で読みやすい点も評価に値する。『予想どおりに不合理』とあわせて、是非手元に置いておきたい本である。

-心理学-
本の紹介『予想どおりに不合理』
-心理学-
本の紹介『その問題、経済学で解決できます。』
-マンガ-
本の紹介『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』
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